使用価値(減損会計)の計算方法を会計基準に基づき解説(上級)
執筆日:2024年11月15日
※本記事は、2024年11月15日現在に公表・適用されている会計基準等に基づいています。
※対象:上級者・実務家
※本記事は会計基準等の全てを解説しているわけではありません。実務では会計基準等もご参照ください。
減損会計の手続きでは資産又は資産グループの将来キャッシュフローの見積りに際して「使用価値」を計算することがあります。
本記事では、「使用価値」の計算方法を中心に、会計基準等に基づいて解説します。
使用価値(減損会計)の計算方法を会計基準に基づき解説(上級)
目次
使用価値とは
「使用価値」とは、資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値をいいます(固定資産の減損に係る会計基準 (注1) 4)。
使用価値は、「減損損失の認識」及び「減損損失の測定」の手続きにおいて、将来キャッシュフローを見積もる際の計算要素の1つとして登場します。
減損会計の手続き
- 1.資産のグルーピング
- ↓
- 2.減損の兆候
- ↓
- 3.減損損失の認識
- ↓
- 4.減損損失の測定
- ↓
- 5.会計処理・表示
使用価値の計算方法
「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」には次の通り記載されています。
(1)継続的使用の算定
資産又は資産グループの継続的使用によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローは適用指針の「将来キャッシュ・フロー」の項(36〜42項)に基づき算定します。
(2)使用後の処分の算定
次に、使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローは、適用指針の「正味売却価額」の項(29項)に基づき算定します。
(3)現在価値の算定
(1)及び(2)で見積もった将来キャッシュフローを適用指針の「使用価値の算定に際して用いられる割引率」の項(43〜47項)に基づいた割引率によって、現在価値とします。
留意点
使用価値を計算する際の留意点は次の通り。
減損損失の認識の判定における留意点
「減損損失の認識の判定」では、「割引前」将来キャッシュフローを算定しますが、将来CFの一要素として使用価値を計算する場合があります。
「資産又は資産グループ中の主要な資産」と「主要な資産以外の構成資産」について、それぞれ適用指針に記載があります。
(主要な資産)20 年経過時点の使用価値の算定
<資産又は資産グループ中の主要な資産の場合>
割日前将来キャッシュフローの見積りに際して、経済的残存使用年数が20年を超える場合(18項(2))、20年を超える部分について算定する「20 年経過時点の使用価値」は、20 年経過時点以降に見込まれる将来キャッシュ・フローに基づいて、当該時点の現在価値として算定します(第116項 参照)。
計算例
- ・主要な資産の経済的残存使用年数 23年
- ・21〜23年の将来CF 毎年20
- ・23年の正味売却価額 10
- ・割引率 3%
- (将来CFの算定)
- ・20年経過時点の使用価値=20✕(1/1.03)+20✕(1/1.03^2)+(20+10)✕(1/1.03^3)=65.723...→66(四捨五入)
- ※計算式中、「^2」「^3」は2乗、3乗を表す。
- ※この後に「20年経過時点の正味売却価額」と比較し、大きい方を「20年経過時点の回収可能価額」とします。
(補足)使用価値の算定が困難な場合
- ・長期間経過後の将来キャッシュ・フローを合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積ることは困難な場合が多く、その場合、回収可能価額は、当該時点の正味売却価額になります(116項)。
(構成資産)主要な資産の経済的残存使用年数経過時点の使用価値の算定
<構成資産の場合>
「主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数」が「主要な資産の経済的残存使用年数」を超える場合(18項(4))、「主要な資産の経済的残存使用年数経過時点における構成資産の回収可能価額」は、もはや主要な資産が存在しないため、原則として、当該時点における構成資産の正味売却価額になります。
ただし、主要な資産の経済的残存使用年数経過後、新たに主要な資産になると考えられる資産の使用に係る「合理的な計画」が存在している場合には、構成資産の正味売却価額に代えて、「当該合理的な計画に従って算定した将来キャッシュ・フローの主要な資産の経済的残存使用年数経過時点における現在価値(使用価値)」を用いることができます(33項、117項 参照)。
計算例
- ・経済的残存使用年数
- →主要な資産7年 構成資産10年
- ・7年経過時点の正味売却価額30(主要な資産20 構成資産10)
- ・8〜10年の将来CF 毎年20
- ・23年の正味売却価額 10
- ・割引率 3%
- (将来CFの算定)
- ・①原則:7年経過時点の回収可能価額=7年経過時点の正味売却価額=30
- ②合理的な計画(上記参照)が存在する場合:7年経過時点の使用価値=20✕(1/1.03)+20✕(1/1.03^2)+(20+10)✕(1/1.03^3)=65.723...→66(四捨五入)
- ※②の場合、回収可能価額は使用価値66( > 正味売却価額30)になります。
- ※計算式中、「^2」「^3」は2乗、3乗を表す。
(補足)正味売却価額の算定
- ・本ケースにおいて、主要な資産以外の構成資産が償却資産の場合、現在の構成資産の帳簿価額から主要な資産の経済的残存使用年数までの適切な減価額を控除した金額を正味売却価額に代えて用いることができます(33項)。
減損損失の測定における留意点
本記事では、次の2点を説明します。
将来CF見積経過後の使用価値の算定
上記の「構成資産の使用価値の算定」と同様の記載です。
減損損失の測定における将来CFの見積り期間は、「20年」の上限はなく「資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数」になります。
この場合における、当該経過時点における他の資産の回収可能価額は、原則として、当該時点における他の資産の正味売却価額になります。
ただし、当該経過時点後に、将来CFの見積りに用いた資産の使用に係る「合理的な計画」が存在している場合には、当該時点における他の資産の正味売却価額に代えて、当該合理的な計画に従って算定した将来キャッシュ・フローの当該経過時点における現在価値を用いることができます(34項)。
※計算例は上記の計算例と同様のため省略。
割引率
現在価値の算定において用いる割引率には、「貨幣の時間価値」と「将来CFが見積値から乖離するリスク(リスク・プレミアム)」とがあります。
このうち、割引率には必ず貨幣の時間価値を含める必要がありますが、「リスクプレミアム」は割引率に反映する方法以外にも将来CFの見積値に反映させる方法があります(ただし、この場合であっても、「減損損失の認識の判定」における割引前将来CFはリスクプレミアムを反映させずに算定します)(「固定資産の減損損失に係る会計基準(注6)」)。
会計基準等・参考文献
会計基準等
※2024年11月15日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。
・固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書(固定資産の減損に係る会計基準 及び同注解を含む)(企業会計審議会)
・固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(移管指針第6号)
参考文献
・新日本監査法人編 完全ガイド 固定資産の減損会計実務 税務研究会出版局 2004年
固定資産は取得原価主義や費用配分の原則をはじめ、伝統的な論点が多い分野。会計理論と併せての学習が効率的です。