9-4 売却取引と減価償却累計額の計算
売却取引の応用論点を解説します。
減価償却累計額の計算を含む売却取引の仕訳
前回の売却取引の問題では、減価償却累計額の金額は問題文に記載されていました。
しかし中には減価償却累計額を計算させる問題が出題されることもあります。
減価償却累計額の計算の特徴
有形固定資産の使用時期全ての減価償却を計算して累計する必要があることです。
なぜならば、減価償却累計額はB/S科目(評価勘定。負債と同様に増減)のため、前期から残高を引き継ぐからです。
従って、取得日から当期までの期間に渡る全期間の減価償却費を計算し、それぞれの金額を合計します。
減価償却累計額の計算
2つ例を示して計算方法を解説します。
(1)月割り計算のない場合
例えば、「当期の決算日が×3年3月31日で、建物1千万円(耐用年数50年、残存価額ゼロ)を×1年4月1日に取得」したような場合をいいます。
この場合、減価償却累計額を計算すると次の通り。
<計算例-減価償却累計額の計算1>
- ・減価償却費(使用後1年目:×1年4月1日から×2年3月31日)
- =(取得原価10,000,000円 - 残存価額0円)÷ 耐用年数50年 = 200,000円
- ・減価償却費(使用後2年目:×2年4月1日から×3年3月31日)
- =(取得原価10,000,000円 - 残存価額0円)÷ 耐用年数50年 = 200,000円
- ・減価償却累計額 = 減価償却費(1年目)+ 減価償却費(2年目)= 200,000円 + 200,000円 = 400,000円
<ポイント:減価償却累計額の「累計額」の意味>
- ・「減価償却累計額」は、文字通り、減価償却の累計額です。つまり、勘定元帳上で「次期繰越」として、次期に残高を引き継いで蓄積します。
- ・この点は現金をはじめとする資産・負債・純資産の勘定科目( = B/S科目)と同じです。
- ・これに対して「減価償却費」は費用科目のため、次期に残高を引き継ぎません。
- ※次期繰越(勘定残高の引継ぎ)は「13-5 帳簿の締め切り」で解説します。
(2)月割り計算がある場合
例えば、「当期の決算日が×3年3月31日で、建物1千万円(耐用年数50年、残存価額ゼロ)を×1年7月1日に取得」したような場合をいいます。
この場合、減価償却累計額を計算すると次の通り。
<計算例-減価償却累計額の計算2>
- ・減価償却費(使用後1年目:×1年7月1日から×2年3月31日)
- =(取得原価10,000,000円 - 残存価額0円)÷ 耐用年数50年 × 経過月9ヶ月(×1年7月1日から×2年3月31日)/ 12ヶ月 = 150,000円
- ・減価償却費(使用後2年目:×2年4月1日から×3年3月31日)
- =(取得原価10,000,000円 - 残存価額0円)÷ 耐用年数50年 = 200,000円
- ・減価償却累計額 = 減価償却費(1年目)+ 減価償却費(2年目)= 150,000円 + 200,000円 = 350,000円
この通り、取得日が期首ではなく期中に取得した場合には、月割り計算を行う必要があるため、計算が複雑になります。
売却取引の基本取引(期首売却)
前回からこれまでの売却取引には日付の指定がありませんでしたが、基本的な売却取引の日付は「期首(前期の決算日の翌日)」と考えます。
例えば、上記の(1)の建物を×3年4月1日に建物を売却した場合には、上記(1)で計算した減価償却累計額400,000円(取得日×1年4月1日から×3年3月31日まで)を借方に記入して売却取引を仕訳します。
仕訳問題
- A社は決算日を毎年3月31日としている。×18年度(×18年4月1日から×19年3月31日)の次の取引を仕訳しなさい。
- 1.×18年4月1日、A社はB社に建物を6百万円で売却した。代金は来月入金予定である。
- この建物は×1年4月1日に10,000,000円(残存価額ゼロ、耐用年数50年)で取得したものである。
- 2.×18年4月1日、A社はC社に備品を30万円で売却した。代金としてC社振出の小切手を受け取った。
- この備品は×15年1月1日に400,000円(残存価額は取得原価の5%、耐用年数8年)で取得したものである。
| No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 建物減価償却累計額 | 3,400,000 | 建物 | 10,000,000 |
| 未収入金 | 6,000,000 | |||
| 固定資産売却損 | 600,000 | |||
| 2 | 備品減価償却累計額 | 154,375 | 備品 | 400,000 |
| 現金 | 300,000 | 固定資産売却益 | 54,375 |
解説
どちらの問題でも「減価償却累計額の計算」がポイントです。
とくにNo1.は、取得日から15年以上経過しているため、年数の数え間違えによる計算ミスをしやすい問題といえます。
<No1>
建物を期首(×1年4月1日)に取得しているので、月割計算を行いません。
1年間(12ヶ月)の減価償却累計額
=(建物取得原価10,000,000円 - 残存価額0円)÷ 耐用年数50年 = 200,000円
減価償却累計額(×1年4月1日から×18年3月31日)
= 年間減価償却累計額200,000円 × 17年(※1)(×1年4月1日から×18年3月31日)= 3,400,000円
<No2>
備品を期中(×15年1月1日)に取得しているので、取得1年目(×15年1月1日から×15年3月31日)だけ月割計算を行います。
1年間(12ヶ月)の減価償却累計額
=(備品取得原価400,000円 - 残存価額20,000円(※2))÷ 耐用年数8年 = 47,500円(※3)
1年目の減価償却累計額(×15年1月1日から×15年3月31日)
= 年間減価償却累計額47,500円 × 経過月3ヶ月(×15年1月1日から×15年3月31日)÷ 12ヶ月 = 11,875円
2年目以降の減価償却累計額(×15年4月1日から×18年3月31日)
= 年間減価償却累計額47,500円 × 3年(※1)(×15年4月1日から×18年3月31日) = 142,500円
備品減価償却累計額(×15年1月1日から×18年3月31日)
= 11,875円 + 142,500円 = 154,375円
※1:「17年」「3年」は指を使って数えれば問題ありません。
※2:備品残存価額 = 備品取得価額400,000円 × 5% = 20,000円
※3:(別解)年間(12ヶ月)の備品減価償却累計額
= 備品取得価額400,000円 × (100% - 5%)÷ 耐用年数8年 = 47,500円
