11-6 例題(本社工場会計の仕訳問題)
それでは、仕訳問題を掲載します。
<Check>例題-本社工場会計(仕訳問題)
- 当社はズボンを製造販売しており、本社工場会計を採用している。
- ・材料と製品の倉庫は工場にある。一方、材料購入や賃金の支払いは本社がまとめて行っている。
- ・工場で使用する勘定科目は「材料 賃金 製造間接費 仕掛品 製品 本社 原価差異」である。
- ・当月の工場の取引は次の通り。
- (問題)次の(1)から(5)の当月の取引について、工場の仕訳を示しなさい。
<Check>当月の工場の取引
- (1)ズボンの原材料である布を200枚(@100円)、掛けで購入した。
- (2)月末になったため、当月賃金の消費額を計上する。なお、直接工の作業時間は2,500時間(うち直接作業時間2,100時間、間接作業時間300時間、手待時間100時間)である。賃率は予定賃率(平均賃率)で計算しており、1,800円/時間を使用している。間接工への当月支払額は785,000円、前月未払額は、245,000円、当月未払額は、255,000円である。
- (3)当月棚卸の結果、材料の棚卸減耗費として45,000円を計上する。
- (4)当社では、直接作業時間を配賦基準として製造間接費を配賦している。次のデータに基づき当月の製造間接費を製品に配賦し、原価差異を計上する。
- ①年間予定直接作業時間:24,000時間
- ②年間製造間接費予算:31,200,000円
- ③当月の製造間接費実際発生額:2,780,000円
- (5)当月に完成したズボン8,000本を倉庫に搬入した。1本あたりの製品原価は975円だった。
<Check>解答-本社工場会計の仕訳
- (1)(借方)材料 20,000 (貸方)本社 20,000
- (2)(借方)仕掛品 3,780,000 (貸方)賃金 5,295,000
- (借方)製造間接費 1,515,000
- (3)(借方)製造間接費 45,000 (貸方)材料 45,000
- (4)(借方)仕掛品 2,730,000 (貸方)製造間接費 2,780,000
- (借方)原価差異 50,000
- (5)(借方)製品 7,800,000 (貸方)仕掛品 7,800,000
それでは、順番に解説します。
解説1-工場と本社の役割の確認
工場と本社とで別々に記帳するため、はじめに、それぞれの役割を確認します。
「材料と製品の倉庫は工場にある。一方、材料購入や賃金の支払いは、本社がまとめて行っている。」と問題にあるので、それぞれの役割は次の通り。
<Check>本社と工場の役割の確認
- ・「工場」の役割→材料や製品の入庫や出庫
- ・「本社」の役割→材料購入の支払いと給与支払い
- ※問題文に記載はないが、製品の製造は当然「工場」の役割
解説2-工場で使用する勘定科目の確認
問題文から、次の勘定科目を工場で使用していると分かります。「材料 賃金 製造間接費 仕掛品 製品 本社 原価差異」
<Check>工場で使用する勘定科目の確認
- ・材料 賃金 製造間接費 仕掛品 製品 本社 原価差異
次に、本問(1)から(5)の取引の仕訳を解説しますが、ほとんどの仕訳は他の論点で解説済みです。
本社工場会計特有の論点以外は、ポイントを解説します。
解説3-(1)材料購入の仕訳
<Check>(再掲)当月の工場の取引
- (1)ズボンの原材料である布を200枚(@100円)、掛けで購入した。
本社工場会計を採用していなければ、「(借方)材料 20,000 (貸方)買掛金 20,000」と仕訳します( 詳細は第2章の「2-3.材料費」を参照)。
しかし今回は工場側の仕訳であり、問題文から、本社が材料購入の支払いを行います。
従って、貸方は「買掛金」ではなく「本社」を記入します。
<Check>仕訳-(1)材料の購入
- (1)(借方)材料 20,000(※) (貸方)本社 20,000
- (※)布@100円 × 200枚 = 20,000円
ちなみに、本社の仕訳は次の通り。
<Check>本社の仕訳-(1)材料の購入
- (借方)工場 20,000 (貸方)買掛金 20,000
解説4-(2)賃金の消費(労務費の計上)
<Check>(再掲)当月の工場の取引
- (2)月末になったため、当月賃金の消費額を計上する。なお、直接工の作業時間は2,500時間(うち直接作業時間2,100時間、間接作業時間300時間、手待時間100時間)である。賃率は予定賃率(平均賃率)で計算しており、1,800円/時間を使用している。間接工への当月支払額は785,000円、前月未払額は、245,000円、当月未払額は、255,000円である。
「月末になったため、当月賃金の消費額を計上する。」とあるので、賃金の支払いではなく、労務費計上の仕訳を示す問題だと理解します。
※賃金の「消費」→労務費の「製造投入」→労務費を「仕掛品」に計上→「賃金(又は賃金・給料)」から「仕掛品」への振り替え
従って、仕訳の型は次の通り( 詳細は第2章の「2-4.労務費」を参照)。
<Check>仕訳-賃金の消費(労務費の計上)
- 直接労務費→(借方)仕掛品 ××× (貸方)賃金 ×××
- 間接労務費→(借方)製造間接費 ××× (貸方)賃金 ×××
与えられた労務費を「直接労務費」と「間接労務費」に分類すると、直接工の直接作業時間2,100時間(予定賃率1,800円/時間)が「直接労務費」です。
直接工の間接作業時間と手待時間分の賃金、および間接工の賃金は全て「間接労務費」になります。
次に「金額の計算」ですが、直接工賃金は「予定賃率×作業時間」、間接工賃金は「要支払額」で計算します。
以上から、仕訳は次の通り。
<Check>仕訳-(2)賃金の消費(労務費の計上)
- (2)(借方)仕掛品 3,780,000(※1) (貸方)賃金 5,295,000(※3)
- (借方)製造間接費 1,515,000(※2)
- (※1)直接工の予定賃率1,800円/時間 × 直接作業時間2,100時間 = 3,780,000円
- (※2-1)間接労務費(直接工)= 直接工の予定賃率1,800円/時間 × (間接作業時間300時間 + 手待時間100時間) = 720,000円
- (※2-2)間接労務費(間接工)= 間接工の要支払額 = 当月支払額785,000円 + 当月未払額255,000円 - 前月未払額245,000円 = 795,000円
- (※2) (※2-1)間接労務費(直接工)720,000円 + (※2-2)間接労務費(間接工)795,000円 = 1,515,000円
- (※3) (借方)の合計より
解説5-(3)棚卸減耗費の発生
<Check>(再掲)当月の工場の取引
- (3)当月棚卸の結果、材料の棚卸減耗費として45,000円を計上する。
棚卸減耗費は材料ではなく、経費(間接経費)に分類されます。使用できる勘定科目から仕訳は次の通り( 詳細は第2章の「2-5.経費」を参照)。
<Check>仕訳-(3)棚卸減耗費の発生
- (3)(借方)製造間接費 45,000 (貸方)材料 45,000
解説6-(4)製造間接費と原価差異の計上
<Check>(再掲)当月の工場の取引
- (2)月末になったため、当月賃金の消費額を計上する。なお、直接工の作業時間は2,500時間(うち直接作業時間2,100時間、間接作業時間300時間、手待時間100時間)である。賃率は予定賃率(平均賃率)で計算しており、1,800円/時間を使用している。間接工への当月支払額は785,000円、前月未払額は、245,000円、当月未払額は、255,000円である。
- (4)当社では、直接作業時間を配賦基準として製造間接費を配賦している。次のデータに基づき当月の製造間接費を製品に配賦し原価差異を計上する。
- ①年間予定直接作業時間:24,000時間
- ②年間製造間接費予算:31,200,000円
- ③当月の製造間接費実際発生額:2,780,000円
(4)の問題には、(2)の情報が必要になるため、(2)も再掲しています。
問題文より製造間接費は予定配賦し、予定配賦額と実際発生額の差額を原価差異(製造間接費配賦差異)として計上します。仕訳の型は次の通り( 詳細は「第3章 製造間接費」を参照)
<Check>仕訳-製造間接費と原価差異の計上
- (借方)仕掛品 ××× (貸方)製造間接費 ×××
- (借方)原価差異 ×××
- ※不利差異(借方差異)が発生した場合
予定配賦額を計算するために、(2)の情報(実際作業時間)を使用します。仕訳は次の通り。
<Check>仕訳-(4)製造間接費と原価差異の計上
- (4)(借方)仕掛品 2,730,000(※1) (貸方)製造間接費 2,780,000(※2)
- (借方)原価差異 50,000(※3)
- (※1-1)予定配賦率 = 年間製造間接費予算31,200,000円 ÷ 年間予定直接作業時間24,000時間 = @1,300円
- (※1) (※1-1)予定配賦率@1,300円 × 当月直接作業時間2,100時間(取引(2)より) = 2,730,000円
- (※2)取引(4)「③当月の製造間接費実際発生額:2,780,000円」より
- (※3) (※1)製造間接費予定配賦額2,730,000円 - (※2)製造間接費実際発生額2,780,000円 = △50,000円(不利差異・借方差異)
<補足>工業簿記の仕訳問題
本試験では、工業簿記の仕訳問題が3問出題されます。
出題形式の特徴として、「3問が一連の取引として出題される場合があること」です(一連でない場合もあります)。
(4)を解くのに(2)の情報を必要とする本問のように、他の問題の情報も併せないと解けない場合があります。
解説7-(5)製品(完成品原価)の計上
<Check>(再掲)当月の工場の取引
- (5)当月に完成したズボン8,000本を倉庫に搬入した。1本あたりの製品原価は975円だった。
問題文より、工場に製品の倉庫があるため、工場だけの取引です。従って、本社勘定は使用しません。
仮に、工場に製品倉庫がなく本社にあった場合には、本社勘定で記入します。仕訳の型は次の通り( 詳細は「第8章 製品勘定」を参照)
<Check>仕訳-製品(完成品原価)の計上
- ・工場に倉庫あり→(借方)製品 ××× (貸方)仕掛品 ×××
- ・工場に倉庫なし(本社にあり)
- 工場側の仕訳→(借方)本社 ××× (貸方)仕掛品 ×××
- 本社側の仕訳→(借方)製品 ××× (貸方)工場 ×××
本問の仕訳は次の通り。
<Check>仕訳-(5)製品(完成品原価)の計上
- (5)(借方)製品 7,800,000(※1) (貸方)仕掛品 7,800,000
- (※1)ズボン1本当たり原価 @975円 × 8,000本 = 7,800,000円
本章は、以上で終了です。次は「損益計算書」と「製造原価報告書」について解説します。
