6-7 履行義務

はじめに、履行義務について解説します。

履行義務とは

履行義務(りこうぎむ)とは、収益認識の単位となる財又はサービスのことをいいます。

収益認識に関する会計基準上の履行義務の位置付け

会社が顧客に提供する財又はサービスのうち、どの単位で売上を計上するのかを会社で検討して決めるために、履行義務という用語が存在します。

これまでの学習内容との違い

これまで学習した商品やサービスは、それ自体が収益認識の単位になっていました。

例えば

商品X10個を@100で販売する
オフィスビルの賃貸収入6ヶ月分1,200を前払いで受け取る

などです。

これらの例では「Xという商品」「オフィスビルの賃貸というサービス」が収益認識の単位になっています。

これに対して、「収益認識に関する会計基準」では

商品やサービスをどの単位で売上計上するのか、会計ルールに従って検討して合理的な見解を説明してください

ということを求めています。

具体例

例えば、ある会社(A社)はソフトウェア開発、及び一定期間のサポートサービスを事業としており、ある顧客(B社)に販売・サービス提供するとします。

この取引を履行義務に従って検討する場合、次の2つの考え方があります。

(1)の考え方であれば、開発ソフトウェアを納品し検収した時に売上を計上します。その後、サポートサービスを提供した期間に応じて役務収益を計上します。

(2)の考え方であれば、開発ソフトウェアを納品・検収しても売上計上できず、一定期間のサポートサービス終了後に売上・役務収益を計上します。

これまでの簿記2級で学んだ考え方であれば、(1)で計上を考えても、(2)の方法による計上は考えませんでした。

しかし、例えば

「B社で使用する、あるシステムを構成する重要なソフトウェアである」
「A社でしか開発できない特殊な技術が使われている」
「サポートを受けないと運用を開始できないが、A社のみがノウハウを有する」

といった状況であれば、「収益認識に関する会計基準」のルールに従えば、(2)の方法で売上計上すると判断する可能性は高い、といえます。

※上記の例は簿記2級の範囲外。「収益認識に関する会計基準」の基本的な知識を問う問題が出題されます。

履行義務の分類

履行義務は

「一時点で充足される履行義務」と
「一定の期間にわたり充足される履行義務」

とに分類できます。

一時点で充足される履行義務とは、上記のソフトウェアや一般的な商品のように、納品や検収といったタイミングで収益認識する履行義務をいいます。

一定の期間にわたり充足される履行義務とは、上記のサポートサービスや清掃サービスのように、期間に応じて収益認識する履行義務をいいます。

ただし、あくまでも履行義務として識別されることを前提とします。

例えば、上記の例では、(1)ではソフトウェアを「一時点で充足される履行義務」、サポートサービスを「一定の期間にわたり充足される履行義務」と考えることができます(他のルールを検討した結果、問題がなければですが)。

これに対して、(2)ではソフトウェアとサポートサービスをまとめて1つの履行義務としており、「一時点で充足される履行義務」として識別される可能性が高いと考えられます。

<補足>履行義務の識別

上記の例は、あくまでも分かりやすさを優先とした例として解説しています。

履行義務の識別、及び「一時点で充足される履行義務」又は「一定の期間にわたり充足される履行義務」の判断は、「収益認識に関する会計基準」に詳細なルールが定められており、上記以外にも検討する要素は沢山あることに留意してください。

簿記2級の学習範囲

簿記2級では、「一時点で充足される履行義務」又は「一定の期間にわたり充足される履行義務」は問題文に明示するか、又は容易に判断できる問題が出題されます(商工会議所の出題区分に関する説明資料より)。

問題文を読み取って、どの単位で売上計上すればよいのかが分かる位に、理解しておけば対応できます。

仕訳問題

No借方科目借方金額貸方科目貸方金額
1売掛金100売上100
売掛金30役務収益30

※本試験では選択肢の中から勘定科目を選択します

解説

<履行義務の識別について>
「それぞれを履行義務として識別する」とあることから、商品と保守サポートサービスを、それぞれ別々に収益認識します。

「一時点で充足される履行義務」か「一定の期間にわたり充足される履行義務」か、の記載がありませんが、問題文から商品は前者、保守サポートサービスは後者で収益認識すると読み取れます(判断する特別な文言の記載はありませんので、一般的な方法はどちらか、という視点で考える)。

<収益認識のタイミングについて>
役務収益 = 総額120 × (当期6ヶ月 / 24ヶ月) = 30

代表的な収益認識のタイミングは次の通り。問題文から読み取れるようにしましょう。

<勘定科目について>
勘定科目は、本試験では選択肢が与えられます。

売上・役務収益・営業収益・受取手数料などが選択肢として考えられますが、勘定科目の選択の判断に困るような問題は出題されないはずです。

なお、商工会議所資料の勘定科目表によると、「役務収益・受取手数料の代わりに営業収益を使って仕訳できる」としています。

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