6-8 契約資産と契約負債
次に契約資産と契約負債を解説します。
契約資産
契約資産とは、企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利(ただし、顧客との契約から生じた債権を除く。)をいいます。
カッコ書きに記載の「顧客との契約から生じた債権」とは、売掛金のことと理解して差し支えありません。
契約負債
契約負債とは、財又はサービスを顧客に移転する企業の義務に対して、企業が顧客から対価を受け取ったもの又は対価を受け取る期限が到来しているものをいいます。
簡単に言えばこれまでに学習した前受金のことと理解して差し支えありません。
契約資産の考え方
簡単にすると、「商品の販売、引き渡し、検収、又はサービス提供といった顧客に財又はサービスが移転した時になっても、対価を請求できない状態」の場合に、契約資産を計上します。
例えば、商品を5個販売する契約を顧客と締結したが、5個全てを引き渡さないと請求できない契約の場合、当期に商品を2個だけ引き渡した場合に、契約資産を計上します。
もう1つ代表的な例は、長期に渡る大規模な建設工事です。期をまたぐ工事になる場合、当期までの収益と認められる額について進捗度を見積もり、売上として計上するとともに、契約資産を計上します。
「財又はサービスは顧客に移転したが、請求できない」という点がポイントです。請求できる場合は、契約資産ではなく売掛金です。
※分かりやすさを優先して説明しています。実際の実務では単純な判断ではなく、「収益認識に関する会計基準」を読み込み、各社の各取引に応じた合理的な説明を行う必要があります。
契約負債の考え方
財又はサービスを移転する前の段階(=義務)で、顧客から対価を受け取った場合が、契約負債です。
前受金は、この定義に当てはまりますが、「収益認識に関する会計基準」では、「契約負債」で仕訳します。
例えば、商品販売前に受け取る手付金は、契約負債で計上します。
<補足>契約負債と前受金
商工会議所資料の勘定科目表によると、「契約負債の代わりに前受金を使って仕訳できる」としています。本試験で選択肢に契約負債がない場合には前受金を選択しましょう。
仕訳問題
- 1.A社は商品X(¥10,000)と商品Y(¥20,000)を顧客に販売する契約を締結し、商品Xを顧客に引き渡した。なお、代金は商品Yを引き渡した後に請求する契約になっている。また、商品Xと商品Yは、それぞれを履行義務として識別する。
- 2.A社は商品Yを顧客へ引き渡した。
- 3.B社は商品Z(¥50,000)を顧客に販売する契約を締結し、手付金として¥30,000が普通預金に振り込まれた。
- 4.B社は商品Zを顧客に引き渡した。
No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
1 | 契約資産 | 10,000 | 売上 | 10,000 |
2 | 売掛金 | 30,000 | 売上 | 20,000 |
契約資産 | 10,000 | |||
3 | 普通預金 | 30,000 | 契約負債※ | 30,000 |
4 | 売掛金 | 20,000 | 売上 | 50,000 |
契約負債※ | 30,000 |
※前受金でも可
解説
問題1.と2.
問題文から、商品Xを引き渡しても対価を請求できないため、1.の段階では、契約資産で仕訳します。
2.で、商品Yを引き渡し対価を請求できるようになったため、契約資産を減少させ、商品XとY、両方の対価を売掛金で仕訳します。
問題3.と4.
簿記3級でも出題されるような問題です。本試験で、契約負債ではなく前受金が選択肢にあれば、前受金を選択します。
代金の請求が、どの時点で行われる契約なのか、記載がない不親切な問題ですが、記載されていない場合は、販売時に請求できる一般的な契約である、と考えて差し支えないでしょう。
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