将来キャッシュフローの見積方法|固定資産の減損会計(上級)
執筆日:2024年11月8日
※本記事は、2024年11月8日現在に公表・適用されている会計基準等に基づいています。
※対象:上級者・実務家
※本記事には公認会計士試験等では一般的には出題されない内容が含まれています。
※本記事の一部では「コメント」として著者の見解を述べています。
※本記事は会計基準等の全てを解説しているわけではありません。実務では会計基準等もご参照ください。
「固定資産の減損損失」の将来キャッシュ・フローの見積方法について、会計基準等に基づいて詳細を解説します。
将来キャッシュフローの見積方法|固定資産の減損会計(上級)
目次
将来キャッシュフローの見積り
固定資産の減損会計では、次の2点を目的として「グルーピングした資産又は資産グループ毎」に「将来キャッシュフロー(以下、将来CF)の見積り」を行います。
将来CFの目的
- (目的1)減損損失を認識するかどうかの判定のため(減損損失の認識)
- (目的2)使用価値の算定のため(減損損失の測定)
- ※カッコ内は減損損失の手続き
減損会計の手続き
- 1.資産のグルーピング
- ↓
- 2.減損の兆候
- ↓
- 3.減損損失の認識
- ↓
- 4.減損損失の測定
将来CFの見積方法
「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」上の定めの要旨は次の通りです。
将来CFの見積方法-会計基準
- ・企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づくこと
- ・資産又は資産グループの現在の使用状況及び合理的な使用計画等を考慮すること
- ・「生起する可能性の最も高い単一の金額(最頻値法)」又は「生起しうる複数の将来CFを各々の確率で加重平均した金額(期待値法)」とすること
- ・間接的に生ずる支出は、関連する資産又は資産グループに合理的な方法により配分し、将来CFの見積りに際し控除すること
- ・「利息支払額」並びに「法人税等の支払額及び還付額」を含めないこと
- ※会計基準 二 4 (1)〜(5) 参照
以下、主に「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」に基づき、上記の2つの目的の違いも含めて詳細を説明します。
1.数値の前提
将来CFは、企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積ります(会計基準 二 4 (1))。
「企業に固有の事情」を反映した将来CFとは、資産の市場価格である「時価」ではなく「企業が資産を利用して獲得した正味のCF」を意味します。つまり、同じ固定資産であっても企業の使い方によって将来CFが異なるということです。
従って、将来CFは画一的に見積もられるわけではありません。しかし、財務諸表数値として反映させるため、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づき見積られる必要があることから、適用指針は次の留意事項を挙げています(以上、適用指針118項 参照)。
将来CF見積上の留意事項
- (1)取締役会等で承認した中長期計画の前提となった数値を企業内外の要因に関する情報と整合的に修正し、各資産又は資産グループの現在の使用状況や合理的な使用計画等を考慮して見積もる。
- (2)中長期計画が存在しない場合には、企業内外の要因に関する情報に基づき、現在の使用状況や合理的な使用計画等を考慮して合理的に見積る。これには、過去の一定期間における実際のCF平均に、これまでの趨勢を踏まえた一定又は逓減する成長率の仮定をおいて見積もることも含む。
- (3) 中長期計画の見積期間を超える期間の将来CFを算定する場合には、原則、(1)前半の数値に、合理的な反証がない限り、それまでの計画に基づく趨勢を踏まえた一定又は逓減する成長率の仮定をおいて見積もる。
- (4)資産又は資産グループの将来CFの見積りに際しては、「現金基準に基づく方法」だけでなく、「発生基準による見積に重要な非資金損益項目(減価償却費等)を加減した金額」を用いることができる。
- 適用指針36項(1)〜(4) 参照
2.見積りの範囲
将来CFは、資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・イン・フローから、継続的使用と使用後の処分のために生ずると見込まれる将来キャッシュ・アウト・フローを控除して見積ります(適用指針38項)。
将来CFの見積りの範囲
- 1.含めるもの
- ・現在の価値を維持するための合理的な設備投資に関連する将来CF
- ・将来用途が不明の遊休資産:現在の状況に基づき将来CFを見積る
- ・建設仮勘定:合理的な建設/使用計画等を考慮し、完成後の将来キャッシュ・イン・フローから、完成まで及び完成後の将来キャッシュ・アウト・フローを控除して見積る[
- 2.含めないもの
- ・将来の設備増強/事業再編の結果として生ずる将来CFで計画外のもの
3.見積期間
上記の目的によって見積りの期間に関する定めは異なります。
「減損損失の認識の判定」を目的とした場合、将来CFの見積りの期間は「資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数」と「20年」のいずれか短い方になります(適用指針37項(1))
これに対して、「使用価値の算定」を目的とした場合、将来CFの見積りの期間は「資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数」と定められており、「20年」の上限はありません(適用指針37項(2))。
前者の20年の定めは、土地は使用期間が無制限になりうることや、長期間にわたる将来CFの見積りは不確実性が高くなることを理由としています(「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」2(2)② 参照)。
(コメント)両者の違いの理由
- ・「減損損失の識別の判定」では、「割引前」の将来CFを使用します。すなわち、見積数値は「将来CFが見積値から乖離するリスク(後述)」を反映していないため、「20年」の上限を課しています。
- ・これに対して、「使用価値」では、将来CFは「割引率」を用いた現在価値として計算し当該リスクを反映させていることから、上限を定めていないと考えることができます。
4.リスクプレミアムの反映
企業が保有する資産の利用によって獲得する将来CFには、企業固有のリスク(リスクプレミアム)が生じ、当該リスクに関する将来CFの見積方法については目的によって異なります。
「減損損失の認識の判定」では、「将来CFが見積値から乖離するリスク」を反映せずに将来CFを見積ります。この際、将来時点における回収可能価額(適用指針18項(2)(4) 参照)を算定するにあたっては、将来時点における正味売却価額の算定(適用指針29項 参照)及び将来時点における使用価値等の算定(適用指針32項、33項 参照)に基づいて行います(適用指針19項 参照)。
これに対して、「使用価値」では、当該リスクを将来CFの見積りと割引率のいずれかに反映させる必要があります(適用指針39項)。
5.間接的に生ずる支出
上記「将来CFの見積方法-会計基準」に記載の通り、資産又は資産グループの将来CFの見積りに際して控除する間接的に生ずる支出(本社費等)は、「現金基準に基づいて見積る方法」のほか、「発生基準に基づいて見積る方法」によることもできます(適用指針121項 参照)。 ただし、「発生基準に基づいて見積る方法」でも、共用資産の減価償却費は間接的に生ずる支出には含まれないことに留意しなければなりません。
間接的に生ずる支出を各資産又は資産グループに合理的に配分する方法としては、「原価計算基準」の「33 間接費の配賦」や、直課できない営業費用を各費用の性質に応じ各企業の実情に即した合理的な配賦基準に基づき、個々の費用ごとに又はその性質に応じて集約したグループごとに各セグメントに配賦する方法に準ずる方法が挙げられます(以上、適用指針40項、121項 参照)。
6.財務収益費用・法人税等
将来CFには、利息支払額並びに法人税等の支払額及び還付額を含めません。ただし、固定資産の建設に要する支払利息で稼動前の期間において取得原価に算入されている場合は、完成時まで算入されると考えられる利息の支払額を、将来CFの見積りに含めます(適用指針41項、122項 参照)。
また、受取利息は将来CFに含めませんが、賃貸不動産の預り保証金の運用益相当額のように、固定資産の使用に伴って直接的に生ずると考えられる利息等の受取額は、将来キャッシュ・フローの見積りに含めることができます(適用指針42項、123項 参照)。
7.外貨建て
外貨建てで見積もられた将来CFについては、減損損失の認識の判定時の為替相場により換算します(適用指針20項)。
会計基準等・参考文献
会計基準等
※2024年11月8日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。
・固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書(固定資産の減損に係る会計基準 及び同注解を含む)(企業会計審議会)
・固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(移管指針第6号)
参考文献
・新日本監査法人編 完全ガイド 固定資産の減損会計実務 税務研究会出版局 2004年
固定資産は取得原価主義や費用配分の原則をはじめ、伝統的な論点が多い分野。会計理論と併せての学習が効率的です。