資本金と資本準備金とは|制度の目的、メリット、減少(欠損填補)手続
記事最終更新日:2020年3月4日
記事公開日:2012年5月4日
前回、「会計入門その17~純資産とは(出資や株主、株式について)」では、純資産について解説しました。
今回は純資産の科目のうち、資本金と資本準備金について解説していきます。
特に資本金が会社活動上で重要な役割を果たす理由や、資本準備金のメリットや活用場面について言及しながら解説します。
※仕訳処理については下記の記事で解説しています。
資本金と資本準備金とは|制度の目的、メリット、減少(欠損填補)手続
目次
資本金とは
「資本金(しほんきん)」とは会社法や会計の規定によって定められた、会社財産を確保するための基準となる一定の計算上の金額をいいます。
資本金は皆さんも聞いたことのある言葉だと思います。
例えば、会社のホームページを見ると、会社概要に資本金の額が記載されている場合もあります。
資本金は会社に出資があった時に使用する科目です。この科目を見れば、会社がどれだけ株主(=会社の所有者)からお金を預っているかが、おおよその目安として分かります。
「おおよその目安」としているのは株主から預かる払い込み金は、会計上、資本として計上するのが原則ですが、一部、資本準備金にも計上することが会社法上で許されているからです。
資本準備金とは
「資本準備金(しほんじゅんびきん)」とは会社法や会計の規定によって定められた、会社が出資者から預かった払い込み金のうち、資本金として組み入れなかった金額をいいます。
詳細は後述しますが、資本金よりも拘束力の弱い金額として、欠損填補に利用できます。
資本金と資本準備金の根拠
会社法445条には次の通り、資本金と資本準備金の額について定めています。
(引用)会社法 第445条 第三節 資本金の額等 第一款 総則
(資本金の額及び準備金の額)
1項 「株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。」
2項 「前項の払込み又は給付に係る額の二分の一を超えない額は、資本金として計上しないことができる。」
3項 「前項の規定により資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならない。」
そして会計上も会社法計算規則の76条には次の通り、資本金と資本準備金の額について定めています。
(引用)会社法計算規則 第76条
(純資産の部の区分)
1項 「純資産の部は、次の各号に掲げる貸借対照表等の区分に応じ、当該各号に定める項目に区分しなければならない。」
2項 「株主資本に係る項目は、次に掲げる項目に区分しなければならない。この場合において、第五号に掲げる項目は、控除項目とする。
一 資本金
二 新株式申込証拠金
三 資本剰余金
四 利益剰余金
五 自己株式
六 自己株式申込証拠金」
4項 「株式会社の貸借対照表の資本剰余金に係る項目は、次に掲げる項目に区分しなければならない。
一 資本準備金
二 その他資本剰余金」
その他、日本の根本的な会計基準である「企業会計原則」や上場企業の決算書(財務諸表)の会計基準である「財務諸表等規則(財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則)」にも、貸借対照表上には資本金や資本準備金といった科目で表示することが定められています。
資本金の目的
会社法の最も重要な目的に「会社債権者の保護」があります。
この会社債権者の保護という会社法の目的を果たすために、資本金は重要な役割を担っている科目といえます。
この点は、起業したばかりの会社を考えると分かりやすいです。
会社設立時には会社はまだ実質的なビジネス活動は行っていないため、当然、売上や利益が計上されているわけではなく、取引先もいません。
従って、外部の人間からすると信用していい会社かどうかは分かりません。
それでは何をもって会社を信用して取引するかどうか判断するかというと、「会社にどれだけの元手があるか」が分かる資本金の額です。
取引後の会社債権者もこの資本金の額から会社から代金回収できるかどうか判断するための目安になります。
資本金の減少には厳格な手続きが必要な理由
資本金は会社債権者を保護するための重要な科目となるため、いったん払い込まれた資本金の額は安易に減少させられることのないように、資本金の減少は会社法上でも厳格な手続きを定めています。
この点を説明すると次の通りです。
会社設立時点では、この資本金がお金として現金及び預金で計上されていますが、今後、購買などのビジネス活動を通じて別の資産、例えば棚卸資産や建物、工具器具備品等に替わります。
しかし、どんな形であれ、重要なのは「資本金の額に見合った資産が会社にあるかどうか」ということです。
いったん出資があったからには、会社債権者を保護するために簡単に資本金の額を減少させてはいけません。減少させることができないということは、会社は少なくとも同額の資産を保有していなければならないということです。
例えば、現在5百万円の資本金を2百万円に減少させ、減少した3百万円は自分のふところに入れてしまう、といったことを防がないといけません。
なぜならば、資本金の額を見て安心して会社と取引している外部の人間(特に会社債権者)を保護する必要があるからです。
以上から、会社への出資については会社法で厳格な手続が定められています。
会社設立時の資本金と資本準備金の手続き
資本金や資本準備金が増減する取引はいくつか存在しますが、代表的な手続きは会社設立です。
例えば、会社を設立するにあたって経営者は数人の知人から出資してもらい株主になってもらいました。結果として合計1千万円のお金を集めることができました。
この時の貸借対照表は次の通りとなります。
この時点で現金及び預金に1千万円を計上すると同時に資本金と資本準備金が増加します。
資本準備金の目的とメリット
さて、以上の通り、出資の手続きは債権者保護のために厳格な手続が求められますが、今回の例では出資は1千万円であるにも関わらず、資本金は1千万円ではなく5百万円になっています。
確かに会社債権者を保護するのであれば全額資本金に計上すべきかもしれません。
一方で資本金を減少させる合理的な理由がある場合には、もう少し拘束力の弱い「資本金に準じた科目」があると手続的にも比較的スムーズに進みます。
このようなケースに対応するために資本準備金が存在します。
資本準備金は資本金よりも柔軟に使用できる科目です(といっても自分のふところに入れることができるわけではもちろんありません)。
上述の「資本金と資本準備金の根拠」に引用した会社法445条の通り、出資のうち2分の1までを資本準備金にしても構わないという会社法上のルールがあります。
このルールに従って、上のケースでも1千万円のうち5百万円を資本準備金に計上しています。実務でも通常は2分の1を資本準備金に計上します。
資本準備金の取り崩しと欠損填補
それではどのような場合に、より柔軟に資本準備金を使用できるかというと、例えば、欠損填補(けっそんてんぽ)があります。
次の2つの貸借対照表をご覧下さい。
上の貸借対照表ですが、繰越利益剰余金がマイナス150万円となっています。
「繰越利益剰余金(くりこしりえきじょうよきん)」とは、「これまでのビジネス活動を通じて決算を経てきた結果、累積した損益であり、会社が累積して儲かっているのかどうか」が分かる表示科目です。
今回のケースでは赤字が累積し、繰越利益剰余金がマイナスとなりました。
このままですと貸借対照表上の見栄えがよくありません。
また繰越利益剰余金がマイナスになっていると、「今期の決算では黒字だったのにまだ累積では赤字なのか」といったことにもなり、新たな気持ちでビジネスを進めるモチベーションも下がってしまいます。
そこで、この欠損(繰越利益剰余金が累積で赤字である状態)を資本準備金と相殺させることで欠損填補(欠損の埋め合わせ)することが会社法上のルールとして認められています。
具体的には株主総会で普通決議の承認を得ることで欠損填補を行うことができます(会社法448条1項。株式数による多数決。人数による多数決ではありません)。
決議の結果、矢印の下の貸借対照表となり、繰越利益剰余金がゼロになりました。
併せて資本準備金も5百万円から350万円に減少しています。
これで貸借対照表上の見栄えは良くなりました。
ただし、株主から預っているお金を減らすという決断を下すことになりますし、「今後の会社の事業でこの赤字を取り戻すことはできないので減少するのか」と考える人もいるでしょう。
社内外に与える影響を考えると、実務では軽々しく資本準備金の減少はできるはずはなく、慎重に会社内で検討する必要があります。
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