財産法・損益法とは|違いと計算式を分かりやすく解説(入門)

机上のPCと電卓

記事最終更新日:2023年8月10日
記事公開日:2020年3月30日

会計の利益計算の方法には、「財産法」と「損益法」があります。

会計の入門用語として登場することが多いですが、財務諸表(貸借対照表と損益計算書)の構造に関する用語のため、初学者には難しく、とっつきにくいかもしれません。

本記事では、会計入門者を対象に、「財産法」と「損益法」の概要や計算式、違いや両者の関係などを分かりやすく解説します。

財産法・損益法とは

財産法」とは、「期首と期末の貸借対照表の資本額(純資産額)の増減」から利益を計算する方法をいいます。

損益法」とは、「損益計算書の収益と費用の差額」から利益を計算する方法をいいます。

両者の共通点と違い

財産法も損益法も、どちらも「利益計算の方法」という点では共通しています。

しかし、上記の通り、両者の計算式が異なります。

「財産法」は、時点の異なる2つの資本額の増減から計算するため、貸借対照表から計算できます。

これに対して「損益法」は、損益計算書上の収益と費用の差額から利益を計算します。

歴史と現在の会計制度との関係

両者の計算式の違いは、現在の会計制度に至るまでの「会計の歴史」に関係しています。

財産法と歴史

中世ヨーロッパでは、フィレンツェやヴェネツィアといった都市国家が、香辛料をはじめとする「地中海貿易」によって栄えましたが、一方で海賊船や難破による財産喪失も多かったことから、「財産価値」の記録が重要であり、実地調査を前提とした財産目録の作成が行われました。

この歴史的事実は、現代では銀行をはじめとする「債権者保護」を目的とした「商法(現会社)」の規定に表れており、債権者保護を目的とした期末時点の会社の財産価値を示すために、貸借対照表の作成が要請されます。

この歴史の経緯によれば、利益計算は「実地棚卸・調査を行った結果としての裏付けのある資産と負債から計算された期末資本」と「同じく計算された期首資本」の差額として計算する「財産法」が用いられます。

損益法と歴史

中世ヨーロッパを中心に海上貿易が盛んになった結果、倒産せずにビジネスが成長・大規模化し事業継続できるようになると、次第に「一会計期間の経営成績の報告」が重要視され、会計も収益と費用を含めた複式簿記による継続記録が求められるようになりました。

この歴史的事実は、現代では既存株主と潜在的な株主からなる「投資家保護」を目的とした「金融証券取引法(旧証券取引法)」の規定として受け継がれ、上場企業は、四半期と年度単位で損益計算書による経営成績の開示が義務化されています。

以上の歴史的な経緯からは、利益計算は「適正な期間損益計算」を重視することから、継続的な収益・費用の帳簿記録によって可能となる「収益と費用」の差額として計算する「損益法」が用いられます。

※日本の「金融商品取引法」「会社法」「税法」の会計制度からなる「トライアングル体制」については、下記の記事を参照

クリーン・サープラス関係

「財産法の利益」と「損益法の利益」が一致する、という関係を「クリーン・サープラス関係」といいます。

「クリーン・サープラス関係」は、損益計算書上の利益が、貸借対照表に引き継がれることを意味します。精算表を作成したことがある人ならば、精算表上にて、当期純利益を貸借反対にして貸借対照表の欄に記入する手続きが分かりやすい例です。

具体例

「期首資本1,000、期末資産2500、期末負債1400、当期収益300、当期費用200」とすると、この会社の利益は次の通り。

・利益(損益法)= 収益300 - 費用200 = 100
・期末資本額 = 期末資産2500 - 期末負債1400 = 1,100
・利益(財産法)= 期末資本1,100 - 期首資本1,000 = 100

財産法では、「棚卸計算法」や「残高確認」により期末資産と期末負債の科目別残高を確定した後に、「資産 ? 負債 = 資本」という「資本等式」を利用して、期末資本を計算します。

メリット・デメリット

財産法のメリット・デメリット

財産法のメリットは、貸借対照表の資産と負債の差額から導かれる2時点の資本の増減として利益が計算されるため、資産と負債の科目別の増減から利益を把握できることです。

さらに、当該資産・負債の実地調査を行った場合には、資産・負債の実在性に関する裏付けが確保されるため、「会社の財産的価値を表す貸借対照表から導出された利益」として有意義な数値になります。

これに対して、収益と費用から計算しないため、利益の発生源泉を把握できない、というデメリットがあります。

損益法のメリット・デメリット

複式簿記による「収益と費用の継続記録」を前提としているため、利益の発生源泉を明らかにできます。

一方で、期末の実地調査を前提としていないことから、「棚卸減耗費」を把握できず、また、帳簿上、実在性のない資産・負債と対になる収益・費用から計算された利益を開示するリスクも増大します。

会計実務上の利益計算

以上のメリット・デメリットから、実務上では、継続記録法による企業取引の会計帳簿記録と、期末における実地調査(棚卸や残高確認)を併用し、損益法の利益(P/L)と財産法の利益(B/S)の双方を計算して一致させます。

参考文献

・スタンダードテキスト財務会計論I(基本論点編)(第9版) 中央経済社 2015年
・友岡賛 会計の時代だ ちくま新書 2006年
・武田隆二 最新 財務諸表論(第5版) 中央経済社 1995年

\ SHARE /

(広告)会計学の基礎論点・表示規則の電子書籍

上級者対象(簿記1級・税理士・公認会計士受験者、経理等の実務家)の問題集
「上級-基本レベル」のシリーズは、基本的な問題を掲載。本試験の一歩手前の段階の学習に適しています。簿記1級ならば難易度「易から普通」レベルの本試験問題対策としても使えます。
全冊購入だと費用高めのため、弱点補強論点のみの利用、若しくは「Kindle Unlimited(月額税込980円の読み放題 初回登録は30日間の無料体験あり)」からの利用をお勧めします。

<穴埋め問題(理論)>
会計基準等の条文を穴埋めにしたシンプルな問題集です。基本的な会計用語やキーワードの学習に◯。
会計基準等の圧倒的な分量の前には、どの試験でも本試験の過去問や専門スクールの演習問題だけではボリューム不足のため、テキストや会計基準等の重要論点の読み込みが会計理論対策の中心になります。穴埋め箇所だけでなく条文全体を理解するよう取り組むと効果が上がります。実務でも会計基準を読めるようになるには基本的な用語やキーワードを覚えるところから。

□書籍紹介
日本の会計基準として古くから存在し現在も実務においてお世話になる会計基準。「真実性の原則」「実現主義」「取得原価主義」など、会計学を学ぶならば欠かせません。試験勉強でも各会計基準を学ぶ前の「土台」としての役割を担う論点のため、専門スクールのテキストでも最初に解説されています。
□書籍紹介
固定資産及び棚卸資産の重要論点のほとんどは「企業会計原則」と「連続意見書」に記載があります。「連続意見書」は企業会計原則の定めをより深く理解するための考え方が記載されており、本試験でも度々出題されます。実務でも「付随費用」「低価法」「棚卸資産の範囲」等の各個別論点が社内会議や監査法人・税理士等とのコミュニケーションで登場することもあれば、「固定資産の減損会計」「棚卸資産の評価に関する会計基準」を中心とする各種の会計基準等を深く理解するための前提知識としても連続意見書の知識は必要といえるでしょう。
□書籍紹介
経理実務や会計監査で財務諸表を作成・監査する場合の表示規則。新しい取引が発生した場合や会計基準の改定等の際には必ず確認します。簿記1級以上の試験範囲であることは勿論ですが、経理実務では財務諸表の開示担当者として活躍するための入口として必読の条文。会計監査でも各科目の表示の妥当性や総括の表示チェックとして、監査法人の入所後に改めて詳細を学ぶことになる分野です。

(広告)上級論点の電子書籍で学習しませんか?

会計・簿記の電子書籍-上級論点(簿記1級以上)

PDCA会計は30冊の「上級論点の基本的な知識」を学ぶための電子書籍(商業簿記・会計学)を発売しています。

「簿記2級を学習中で今後、簿記1級の取得を考えている」
「連結会計・退職給付会計・税効果会計をはじめとする高度な知識を必要とする経理に携わりたい」
「会計基準を読めるようになりたい」
「公認会計士を目指しているが財務会計論でつまづいている」
「減損会計や研究開発費など、論点別の問題集で弱点を補強したい」
Etc...

といった人にオススメしたい書籍です。

<出版状況>

※全ての論点を出版予定

仕訳問題集
穴埋め問題

PDCA会計の上級者向け電子書籍は全て「Kindle Unlimited(月額税込980円の読み放題 初回登録は30日間の無料体験あり)」対象。低価格でコスパに優れ、スマホで使いやすい「リフロー型」です。

<書籍の探し方>

Amazonサイト内で「PDCA会計 連結会計」といったキーワードで検索

サイト内検索

会計(入門)の記事

著者情報

須藤恵亮(すとうけいすけ)

フリーランス公認会計士。1人で「PDCA会計」を企画・開発・運営。

中央青山監査法人で会計監査、事業会社2社でプレイングマネジャーとして管理業務全般及びIPO準備業務に携わる。

現在は派遣・契約社員等として働きながら、副業的に「PDCA会計」の執筆やアプリ開発等コツコツ活動しています。

詳細はこちら↓
著者プロフィール

☆電子書籍の「0円キャンペーン」
日商簿記テキスト・問題集で実施中。X(旧twitter)で告知します。
「PDCA会計」をフォロー

簿記3級テキスト(PDCA会計の電子書籍)