会計入門 B/SとP/Sの関係とは(ストックとフロー、財産法と損益法)
更新日:2020年3月31日
公開日:2020年3月30日
前回、損益計算書と収益・費用・利益の関係では、損益計算書の見方や3要素(収益、費用、利益)の関係などについて解説しました。
今回は、貸借対照表と損益計算書に焦点を当て、両者の関係について、「ストックとフロー」、「財産法と損益法」といった用語にも言及しながら解説します。
貸借対照表と損益計算書の違い
まずはこれまでに解説した貸借対照表と損益計算書を掲載します。
貸借対照表と損益計算書について再度、簡単に説明します。
貸借対照表:ある時点の企業の財政状態を表した表
損益計算書:ある期間の企業の経営成績を表した表
上記の貸借対照表と損益計算書に当てはめて考えてみると、貸借対照表は「令和元年12月31日時点の企業の財政状態を表した表」であり、損益計算書は「平成31年1月1日から令和元年12月31日までの1年間の企業の経営成績を表した表」ということができます。
次に、具体的にこの会社の貸借対照表を見てみると、「令和元年12月31日の時点で、現金及び預金が1,037千円、有価証券が800千円、長期借入金が35,300千円などの残高となっており、損益計算書を見れば、平成31年1月1日から令和元年12月31日までの1年間で、売上高を3,579,129千円、売上原価を2,793,841千円計上した結果、売上総利益は785,288千円になっている。さらに、その他の収益や費用が段階的に計上された結果、最終的な利益である当期純利益は15,864千円を計上している。」ということが分かります。
ここで、「ある時点の」金額をストック、「ある期間の」増減した金額をフローという言葉でそれぞれ説明することが会計ではよくあります。
つまり、次のことがいえます。
・貸借対照表:会社のある時点のストックを表わした表
・損益計算書:会社のある期間のフローを表わした表
※会計や簿記の世界では、ある時点の金額を「残高(ざんだか)」といいます。すなわち「ストック = 残高」といえます。
※貸借対照表や損益計算書に表示する単位は千円や百万円を使用することが多いです。「貸借対照表の見方」にて詳細を解説しています。
フローとストックの違い
フローとストックの違いを図にしてみました。下の図をご覧下さい。
2019年1月1日にビジネスを開始。また、2019年1月1日から2019年12月31日までを【第1期決算】、2020年1月1日から2020年12月31日までを【第2期決算】、2021年1月1日から2021年12月31日までを【第3期決算】としています。現在は2020年12月31日とします。
フローといった場合にはある期間の活動を示します。
例えば、第1期決算の「1年間」や第2期決算の「1年間」を示します。また、「1ヶ月」や「四半期(3ヶ月)」、「半年」、極端なケースでいえば、「1分(60秒)」も、その間の活動はフローの考えに基づきます。
それに対してストックとは、ある時点での有高のことです。
従って「2019年1月1日から2019年12月31日まで」というように「1年間」という期間を表すような言葉の使い方はしません。「2019年12月31日時点の」や「2020年12月31日時点の」や、「2021年3月10日時点の」といった言葉の使い方をします。
ここで例えば、第2期決算について考えてみましょう。
まずは、フローです。フローは「2020年1月1日から2020年12月31日まで」の1年間の活動を表しています。従って上の図では、50になります。
それに対して、ストックは、「2020年12月31日時点」の有高をいいます。上の図でいうと150ということとなります。
ところで、上の図では次の関係となっていることに気付きましたか?
第1期のフロー(100)+第2期のフロー(50)=第2期のストック(150)
この通り、一番最初からその時点までのフローを足し合わせるとストックになります。
ストックとフロー(収入と支出を例に)
もっと簡単な例でストックとフローを考えてみましょう。
小学生のA君の貯金箱には、×1年12月31日時点では1,000円が入っています。これは×1年12月31日時点のストック(残高)になります。
その後、×2年1月1日から12月31日までの間で、毎月500円のお小遣いを貰い、オモチャやお菓子などに合計で5,500円を費やしました。
以上から、×2年1月1日から12月31日までのお金のフローは、収入が毎月500円×12か月で6,000円、支出が5,500円であるため、6,000円-5,500円=500円になります。
この1年間のフロー(増減)は、500円のプラスになりました。
それでは、×2年12月31日時点のストック(残高)はいくらになるか?というと、×1年12月31日時点のストックに、×2年1月1日から12月31日までの1年間のフロー500円を足した1,500円が答えになります。
ストック(×2年)1,500円 = ストック(×1年)1,000円 + フロー(×2年)500円
貸借対照表と損益計算書とのストックとフローの関係も、このお小遣いの例と同じように考えます。
財産法と損益法
当期純利益の求め方として、財産法(ざいさんほう)と損益法(そんえきほう)の2つが存在します。
財産法とは貸借対照表を用いて当期純利益を求める方法であり、損益法とは損益計算書から当期純利益を求める方法です。
ここでも上述のお小遣いの例を使って説明します。
財産法とは
×1年12月31日時点の貯金箱のお金(残高=ストック)は1,000円です。そして×2年12月31日時点ではストックは1,500円に増えました。
ここから、×2年の1年間のフロー(増減)は1,500円 - 1,000円 = 500円となります。
このように当期のストックから前期のストックを差し引くと1年間の増減を求めることができます(「当期」「前期」という言葉については、後述の「補足」にて説明しています)。
以上が、財産法を用いて計算する方法です。
純資産(資本)と財産法
「資産・負債・純資産と貸借対照表との関係」にて純資産を次の通り説明しました。
純資産:①出資者(株主)から預かったお金、および企業活動を行った結果としての儲け(または損失)の累計など
②ある時点の資産から負債を差し引いた差額
簡単な言葉に置き替えると、「純資産(資本)とは会社にとっての貯金である」ということができます。
先のお小遣いの例でいえば、貯金箱に入っているお金と同じことだと考えてみましょう。
×2年12月31日時点でのストック1,500円に該当する貸借対照表上の数字は何か?といえば、「純資産合計」の42,748千円です。
×1(平成30)年12月31日時点の貸借対照表は用意していませんが純資産合計は26,884千円だとすると、財産法で求める当期純利益は次の通りとなります。
(当期)令和元年12月31日の純資産合計42,748千円 - (前期)平成30年12月31日の純資産合計26,884千円 = (当期)令和元年12月31日の当期純利益15,864千円
ここで言えることは、「前期と当期の貸借対照表があれば、損益計算書がなくとも、当期純利益を計算することができる」ということです。
財産法の式を下記に示します(資本 = 純資産と読み替えてください)。
財産法:期末資本 - 期首資本 = 当期純利益
【補足】前期と当期、期首と期末という言葉について
「当期(とうき)」とは、現在の決算年度のことをいいます。例えば、決算日が3月31日の会社であり、現在が×2年7月22日であれば、当期とは×2年4月1日から×3年3月31日までの1年間を指します。
「今年度(こんねんど)」ともいいます。
また、当期の始まり(今回の例では×2年4月1日)を、「当期首(とうきしゅ)(または単に期首)」、さらに今回の例では、×3年3月31日を「当期末(とうきまつ)(または単に期末)」といいます。
前期とは前の期をいいます。この例でいえば、×1年4月1日から×2年3月31日までの1年間のことです。
また、この場合の×2年3月31日を「前期末(ぜんきまつ)」といいます。
時間単位で考えると、×2年4月1日の午前0時になった時点で、前期から当期になります。すなわち「前期の終わり(前期末)=当期の始まり(当期首)」ということができます。
以上から、「前期末のストック(残高)=当期首のストック(残高)」といえます。
損益法とは
損益法は「収益・費用・利益と損益計算書との関係」にて「損益法」という言葉は使用してはいませんが、実は既に説明しています。
損益法とは次の式をいいます。
損益法:収益 - 費用 = 当期純利益
すなわち損益法とは損益計算書をそのまま表した式をいいます。
上記の損益計算書で考えると、売上高(収益)から売上原価(費用)を差し引き段階利益である売上総利益(利益)を求めます。次に売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いて営業利益を求めます。以上の通り収益から費用を差し引く計算を段階利益毎に行っていけば、当期純利益15,864千円に辿り着きます。
財産法と損益法の違い
今回の例では財産法と損益法どちらの方法でも当期純利益は15,864千円になりました。
しかし、これは現在の会計学習の段階であるから両者の結果が一致するのであって、実務では上記の説明では両者の結果は異なります。
理由は、貸借対照表の純資産合計(資本)が増減する要因は当期純利益だけではないからです。
この点は「株主資本等変動計算書(かぶぬししほんとうへんどうけいさんしょ)」を学ぶと分かりますが、この株主資本等変動計算書には「株主への配当金」や「資本金の増加(増資)」など、当期純利益の他にも、純資産の増減理由となる項目が表示されます。
従って、財産法の式では「株主配当や増資といった当期純利益以外の純資産(資本)の増減要因は対象外とする」という条件があって初めて、財産法と損益法のそれぞれで求めた当期純利益は一致することになります。