その他有価証券とは|仕訳と評価差額金を解説(簿記2級・上級)

ビジネスマンと紙幣

記事最終更新日:2023年12月2日
記事公開日:2021年8月2日

「その他有価証券」の仕訳には税効果会計(繰延税金資産・繰延税金負債)が含まれますが、簿記2級では基本事項の学習にとどまるため、仕訳の意味までは理解するまでには至りません。本格的に学習するには、法人税等の高度な知識と理解を必要とします。

また、簿記1級以上になると、「その他有価証券」に関連する論点は増え、簿記だけでなく会計学の知識も必要になります。

本記事では、「その他有価証券」の仕訳と会計処理(その他有価証券評価差額金の計上・表示科目等)について、簿記2級及び上級者(簿記1級以上)の範囲を解説します。

※本記事のうち、「補足」及び「参考」の部分で「上級者・実務家」対象の論点を解説しています。簿記2級の範囲外ですが、理解に役立つ会計知識(会計学の考え方を含む)を記載しています。

※有価証券全般に共通する基本的な仕訳(取得・端数利息・売却・配当金・利息)や保有目的による有価証券の種類(満期保有目的債券、その他有価証券など)、各有価証券の「表示科目」については、下記の記事で解説しています。

※「その他有価証券評価差額金に適用する「税効果会計」と「繰延税金負債」については、下記の記事で解説しています。

その他有価証券とは

その他有価証券」とは、売買目的有価証券、満期保有目的債券、子会社株式および関連会社株式のいずれにも分類されない有価証券をいいます。

名称の通り、他の保有目的に分類できない有価証券を全て含むことから、様々な理由で取得した有価証券を「その他有価証券」として取り扱います。

(補足)その他有価証券の取得理由

例を挙げると、次の通り。

会計処理の特徴

仕訳処理と表示に分けて解説します。

仕訳処理・勘定科目

その他有価証券の増減は、「その他有価証券(資産に属する勘定科目)」で仕訳します。

期末日には、売買目的有価証券と同じく「時価」で評価(貸借対照表に表示)します。

ただし、その他有価証券の帳簿価額と時価との差額(「評価差額」)について、売買目的有価証券の場合には当期の損益として損益計算書に表示しますが、その他有価証券の場合には、「その他有価証券評価差額金(純資産に属する勘定科目)」として貸借対照表の「純資産の部(評価・換算差額等)」に表示します。

また、「その他有価証券評価差額金」の計上時には税効果会計を適用し、「繰延税金資産(資産に属する勘定科目)」又は「繰延税金負債(負債に属する勘定科目)」を計上します。

※期末評価の具体的な仕訳処理については、後述「期末評価の仕訳(参考付き)」で解説しています。

表示科目

「その他有価証券」は、貸借対照表上においては「投資有価証券」の表示科目で、固定資産の「投資その他の資産」の区分に表示します。

また、「その他有価証券評価差額金」は、純資産の部の「評価・換算差額等」の区分に、「その他有価証券評価差額金」の表示科目で貸借対照表に表示します。

(補足)評価・換算差額等

「評価・換算差額等」とは、貸借対照表上の表示区分の1つであり、純資産のうち、「その他有価証券評価差額金」や「繰延ヘッジ損益」など、資本取引に該当しない株主資本及び新株予約権以外の項目を掲載します。

別の言葉で説明すれば、貸借対照表に「その他の包括利益」を表示させる区分をいいます。

(補足)会計処理の経緯

「その他有価証券」の会計処理の経緯について、「金融商品会計基準」に基づいて解説すると次の通り。

(1)「その他有価証券」の区分

有価証券の中には、「売買目的」「満期保有目的」「子会社・関連会社」に分類できない多様な保有目的(上記「(補足)その他有価証券の取得理由」参照)が存在することから、様々な保有目的に対応するため、「売買目的有価証券」や「子会社株式・関連会社株式」の中間的な性格を有する「その他有価証券」という区分が設定されました。

(2)期末評価

「その他有価証券」の取得理由の中には、「売買目的有価証券」のように期末日の時価で貸借対照表に掲載することが財務諸表利用者にとって有用な情報となる場合もあることから、「その他有価証券」は決算時に時価評価します。

(3)「その他有価証券評価差額金」

ただし、帳簿価額と時価との差額(評価差額)については、「その他有価証券」が「売買目的有価証券」のように短期的な売却を目的としておらず、また、「その他有価証券」の保有目的の中には、「事業提携目的」に代表されるように、事業遂行上等の制約から直ちに売却することに困難を伴う場合も存在することから、「その他有価証券」の帳簿価額と時価との差額(評価差額)が必ず投資成果を表す訳ではありません。

従って、「その他有価証券」の評価差額は、当期損益として損益計算書には掲載せず、貸借対照表の純資産の部(「評価・換算差額等」の区分)に直接、「その他有価証券評価差額金」として表示することになりました。

さらに、当該「その他有価証券評価差額金」は国際的にも上記と同様の会計処理が採用されていることから、当該会計処理の採用は、海外企業の財務諸表との比較可能性を担保するという「国際会計基準へのコンバージェンス」の意義を果たすことにも繋がります。

(補足)「その他有価証券」とクリーン・サープラス関係

「その他有価証券評価差額金」がP/Lを経由せずに直接B/Sの純資産に表示されるようになり、日本の会計制度上では、「B/Sの純資産増減 = P/L当期純利益」という「クリーン・サープラス関係」が成立しなくなった、といわれるようになりました。

その他有価証券の仕訳

基本的な取引について、「仕訳一覧」と「仕訳例」を示します。

基本仕訳の一覧

次の通り。

※仕訳の内容は、冒頭で紹介した関連記事で解説しています。

取引借方科目借方金額貸方科目貸方金額
取得(端数利息の支払)※その他有価証券×××現金預金など×××
有価証券利息 ※×××
※端数利息は公社債の取得の場合
売却 ※現金預金など×××その他有価証券×××
有価証券利息 ※×××
投資有価証券売却益×××
※売却益が発生した場合
※端数利息は公社債の取得の場合
配当金の受け取り ※現金×××受取配当金×××
※株式の場合
未収利息の計上未収収益×××有価証券利息×××
※公社債の場合
利息の受け取り ※現金×××有価証券利息×××
※公社債の場合

<仕訳例>
1.業務提携目的で、甲社株式を100で購入した。支払手数料5(付随費用)とともに来月支払う。
2.乙社発行の社債を95(額面100)で購入した(満期まで保有せずに売却する可能性がある)。端数利息2とともに対価は普通預金より振り込んだ。
3.甲社で配当決議が行われた結果、本日、配当金領収証5が郵送で届いた。
4.乙社社債のクーポン3の支払日が到来した。

問題借方科目借方金額貸方科目貸方金額
1その他有価証券105未払金105
2その他有価証券95普通預金97
有価証券利息2
3現金5受取配当金5
4現金3有価証券利息3

期末評価の仕訳(参考付き)

上記「会計処理の特徴」で説明の通り、「その他有価証券」は、決算日の時価で評価します。

相手勘定には「その他有価証券評価差額金(純資産に属する勘定科目)」を用いて仕訳します。

原則として、時価が帳簿価額を上回る場合にも、下回る場合にも、どちらの場合であっても、当該評価差額を「純資産(評価・換算差額等)」として計上します。これを「全部純資産直入法」といいます。

翌期首に「洗替法(洗い替え方式)」によって、決算日とは貸借反対の仕訳を記帳し、決算日の仕訳の影響を相殺します。

期末評価 ※<決算日>
その他有価証券×××その他有価証券評価差額金×××
繰延税金負債×××
<翌期首>
その他有価証券評価差額金×××その他有価証券×××
繰延税金負債×××
※帳簿価額 < 時価の場合

<仕訳例>
1.決算日。その他有価証券(帳簿価額90)の期末時価は100であった。税効果会計を適用する(法人税の実効税率40%)。
2.翌期首になった。

No借方科目借方金額貸方科目貸方金額
1その他有価証券10その他有価証券評価差額金6
繰延税金負債4
2その他有価証券評価差額金6その他有価証券10
繰延税金負債4

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著者情報

須藤恵亮(すとうけいすけ)

フリーランス公認会計士。1人で「PDCA会計」を企画・開発・運営。

中央青山監査法人で会計監査、事業会社2社でプレイングマネジャーとして管理業務全般及びIPO準備業務に携わる。

現在は派遣・契約社員等として働きながら、副業的に「PDCA会計」の執筆やアプリ開発等コツコツ活動しています。

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