自己株式の仕訳|付随費用・株式交付費(IFRSとの違い)
記事最終更新日:2024年11月10日
記事公開日:2022年7月1日
※本記事は、2024年11月10日現在に公表・適用されている会計基準等に基づいています。
※対象:上級者・実務家
「自己株式」の仕訳処理は他の科目と異なる点が少なくありません。特に、「付随費用(株式交付費)」の会計処理はIFRSとも異なることからコンバージェンスの話題として論点となっています。
そこで本記事では、自己株式の取引と仕訳(取得・処分・消却・付随費用の処理など)を解説するとともに、付随費用の会計処理に関するIFRSとの違いについても言及して解説します。
自己株式の仕訳|付随費用・株式交付費(IFRSとの違い)
目次
自己株式とは
「自己株式」とは、取得によって自己が保有する、既発行の自社の株式をいいます。
企業は「敵対的買収の防止策」や「合併等のM&Aの対価」など様々な理由で自己株式を取得することがあります。
資産説と資本控除説
自己株式の会計処理には「資産説」と「資本控除説」が存在します。日本では従来は資産説を採っていましたが、現在は資本控除説の考えと整合した会計処理を採用しています。
自己株式の会計処理
以下、取引別に自己株式の仕訳処理を解説していきます。
取得時の仕訳
「自己株式(純資産の部に属する勘定科目)」として仕訳します(株主資本の控除科目として処理)。
「資産説」を採用していた当時は自己株式を資産として計上していましたが、「資本控除説」に基づく現在の会計基準では「純資産(株主資本)の控除科目」として処理します。
<仕訳例>
自己株式を100で取得した。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
自己株式 | 100 | 現金預金 | 100 |
付随費用の会計処理
自己株式の取得に要した付随費用は取得原価に含めず「営業外費用」として処理します(有価証券・商品・固定資産の付随費用の会計処理との違い)。
<仕訳例>
自己株式100の取得に伴い付随費用5が発生した。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
自己株式 | 100 | 現金預金 | 105 |
支払手数料 | 5 |
(補足)IFRSとの違い(自己株式の付随費用・株式交付費)
自己株式の付随費用(処分時は株式交付費)の処理には2つの考え方に基づく処理方法が、理論上、存在し、国際会計基準(IFRS)と日本会計基準とは異なる会計処理を採用しています。
IFRSと日本会計基準との違い(自己株式の付随費用)
- ・IFRS:付随費用を自己株式本体の取引と一体であることを重視した考えを採用し、自己株式と同じく「資本の控除科目」として処理します。
- ・日本会計基準:自己株式の付随費用を「財務費用」として捉え、取得原価には含めず営業外費用として処理します(処分、消却時も同様)。
日本会計基準では、その他、自己株式の付随費用自体は株主との間の取引ではないこと、及び増資時に発生する「新株発行費(株式交付費)」を資本取引として処理しない(株主資本から控除していない)点も、営業外費用としての処理を採用する理由になっています(以上、「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」50〜54項を参照)。
自己株式の処分(売却・譲渡)時の仕訳
自己株式の取得額(帳簿価額)と処分価額との差額は「自己株式処分差損益(純資産の部に属する勘定科目)」といい、その他の資本剰余金の増減として仕訳します。
自己株式の処分時の付随費用は「株式交付費」で「営業外費用」として処理するのが一般的です。
(補足)繰延資産
- ・株式交付費は繰延資産としても認められていることから、資産計上も可能です。
<仕訳例>
自己株式(取得原価100)を110で処分し、それに伴い5の支出が生じた。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金預金 | 110 | 自己株式 | 100 |
その他資本剰余金 | 10 | ||
株式交付費 | 5 | 現金預金 | 5 |
その他資本剰余金の残高が負の値になる場合
当該負の値は「利益剰余金(繰越利益剰余金)」として処理します(消却時も同様)。
<仕訳例>
自己株式(取得原価100)を90で譲渡した。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金預金 | 90 | 自己株式 | 100 |
その他資本剰余金 | 10 |
<決算整理仕訳>
上記自己株式の処分の結果、決算日のその他資本剰余金残高は△5になった。適切な処理を行う。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
その他資本剰余金 | 5 | 繰越利益剰余金 | 5 |
募集株式の発行等の手続きによる処分と仕訳
募集株式の発行時に自己株式を処分する場合、払込期日に処分の仕訳を行いますが、払込期日前に払込みがあった場合、払込期日までの間は「自己株式申込証拠金(純資産の部に属する勘定科目)」として処理します。
※募集株式の発行(新株発行)時の仕訳は下記の記事で解説しています。
<仕訳例>
1.自己株式(帳簿価額100)の処分を募集したところ、110の払込みがあった。
2.払込期日となったため、自己株式の処分の仕訳を行う。
No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
1 | 別段預金 | 110 | 自己株式申込証拠金 | 110 |
2 | 自己株式申込証拠金 | 110 | 自己株式 | 100 |
その他資本剰余金 | 10 | |||
当座預金 | 110 | 別段預金 | 110 |
消却時の仕訳
消却対象の自己株式の帳簿価額を減額し、その他の資本剰余金を同額減額します。
<仕訳例>
1.自己株式(帳簿価額100)を消却し、これに関連して5を支出した。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
その他の資本剰余金 | 100 | 自己株式 | 100 |
支払手数料 | 5 | 現金預金 | 5 |
子会社が保有する親会社株式の会計処理
連結財務諸表の作成において、子会社が保有する親会社株式は、「自己株式」として処理します。
※詳細は下記の記事を参照。
表示
期末に保有する自己株式は、貸借対照表上、純資産の部(株主資本の区分)の控除科目として一括表示します。自己株式申込証拠金は、自己株式の直後に「自己株式申込証拠金」の科目名で表示します。
付随費用(消却時は株式交付費)は損益計算書上、「営業外費用」として計上します。ただし、消却時の株式交付費を繰延資産として資産計上した場合には、貸借対照表上、帳簿残高を「繰延資産」の区分に表示します。
株主資本等変動計算書において上記取引が発生した場合には、「自己株式の取得」「自己株式の消却」といった名称を付し、他の変動事由とは区分して「当期変動額」に表示します。
会計基準等
※2024年11月10日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。
・自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準(企業会計基準第1号)
・自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第2号)
・繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い(実務対応報告第19号)
・財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
・連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則
・貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準(企業会計基準第5号)
・貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針(企業会計基準適用指針第8号)
・株主資本等変動計算書に関する会計基準(企業会計基準第6号)
・株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第9号)
・会社法(平成十七年法律第八十六号)