商業簿記2級 売買目的有価証券の取引と仕訳
更新日:2020年12月27日
公開日:2017年8月19日
前回は有価証券の保有目的と区分、表示について解説しました。
今回は売買目的有価証券の手続と仕訳処理について説明します。
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売買目的有価証券とは
売買目的有価証券(ばいばいもくてきゆうかしょうけん)とは、時価の変動による利益を得ることを目的として保有する有価証券をいいます。
例えば、上場企業の有価証券は株式市場が存在しており日々時価が変動することから、売買目的有価証券の対象になる有価証券です。
※有価証券は保有目的により4つの区分に分類されるので、上場企業の有価証券であっても別の区分として分類する場合も、もちろんあります。
売買目的有価証券の取引
売買目的有価証券の取引には、取得と売却、利息・配当金の受け取り、および決算時の評価手続があります。
※有価証券の基本的な取引と仕訳、資産の評価については下記の記事を参照。
売買目的有価証券の取得と仕訳
売買目的有価証券の取引には「売買目的有価証券勘定(資産に属する勘定科目)」を使用します。
取得時に端数利息を支払う場合
取得する有価証券が国債、社債、地方債などの債券である場合、債券の保有者は利息を受け取ることができます。
利息というものは時間の経過とともに発生しますが、利息計算の事務手続き上、どうしても四半期や月次といった単位での支払(取得者側からは受取)になってしまいます。
従って債券の売却側からすると、本来受け取るべき利息を一部受け取っていない場合が発生することがあります。
例えば、A社は甲社の社債を8月15日にB社に売却したとして、前回受け取った利息の計算期間が4月1日から6月30日だった場合、A社は7月1日から8月15日までの分の利息を受け取っていない、ということになります。
契約により定められた利息の計算期間の途中までの利息を端数利息(はすうりそく)といいます。
この例では、債券(甲社の社債)の取得者(B社)は次回利息受取日(9月30日)には、7月1日から9月30日までの期間の利息を受け取ることになります。しかし、7月1日から8月15日まではA社が甲社の社債を取得していたので、B社は利息を受け取りすぎています。
そこで、B社は8月15日に甲社の社債を取得した時に、A社に対して端数利息(7月1日から8月15日まで)を支払います。勘定科目は利息の受け取りと同じく有価証券利息勘定を使用します。
※売買日(8月15日)の利息1日分は端数利息に含める場合と含めない場合があるので問題の指示に従います。
以上、売買目的有価証券の取得時の仕訳処理をまとめると次の通り。
出来事 | ケース | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|---|
取得 | 一般的な仕訳 | 売買目的有価証券 | ××× | 現金預金など | ××× |
端数利息を支払った場合 | 売買目的有価証券 | ××× | 現金預金など | ××× | |
有価証券利息 | ××× |
売買目的有価証券の売却と仕訳
売買目的有価証券が減少する取引であるため、売買目的有価証券勘定を貸方に記入します。
取得原価と売却額の差額は有価証券売却益勘定または有価証券売却損勘定を用いて仕訳処理します。
売却する有価証券の種類が国債、社債、地方債などの債券である場合、上記の取得とは逆に考えて、端数利息が発生する場合には端数利息を受け取ることができるので、貸方に有価証券利息勘定を記入します。
出来事 | ケース | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|---|
売却 ※1 | 利益が発生 | 現金預金など | ××× | 売買目的有価証券 | ××× |
有価証券利息 | ××× | ||||
有価証券売却益 | ××× | ||||
損失が発生 | 現金預金など | ××× | 売買目的有価証券 | ××× | |
有価証券利息 | ××× | ||||
有価証券売却損 | ××× |
※1:端数利息が発生した場合の仕訳
複数回に渡って取得した売買目的有価証券の単価計算(移動平均法)
複数回に渡って同一種類の有価証券を購入した場合には、移動平均法や総平均法などの方法によって売却する有価証券の金額を計算します。
※本解説の最後に出題可能性が高い移動平均法を使用した仕訳例を解説します。
売買目的有価証券の配当金、利息の受け取りと仕訳
配当金の受け取りは受取配当金勘定、利息の受け取りは有価証券利息勘定で仕訳します。
出来事 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
配当金の受け取り | 現金 | ××× | 受取配当金 | ××× |
利息の受け取り | 現金 | ××× | 有価証券利息 | ××× |
※ここでいう「受け取り」とは、株式の配当金領収証を受け取った日や債券の利札(クーポン)の利息支払い期限が到来した日をいいます。詳細は下記の記事を参照。
決算時の評価手続と仕訳
「決算時の評価」とは、貸借対照表上の科目のうち、主に資産科目の表示額を決めるための手続をいいます。
具体的には、取得原価で計上されている有価証券を決算日の時価で評価します。
取得原価と時価との差額は売買目的有価証券の増減として仕訳し、相手勘定科目には有価証券評価益勘定(利益が発生した場合)または有価証券評価損勘定(損失が発生した場合)を使用します。
出来事 | ケース | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|---|
決算日の評価 | 利益が発生 | 売買目的有価証券 | ××× | 有価証券評価益 | ××× |
損失が発生 | 有価証券評価損 | ××× | 売買目的有価証券 | ××× |
仕訳例
- 1.6月30日 A社は甲社の社債券1枚(額面200万円)を100円当たり90円で購入した。購入時に買取手数料が5万円発生し全額、当座預金より支払った。
- ※保有目的は時価の変動による利益を得ることである。
- 2.8月15日 A社はNo1と同じ種類である甲社の社債券(額面200万円)2枚を100円当たり94円で購入した。購入時に買取手数料が9万円発生し、全額、月末に支払う予定である。
- ※この社債は利率が5%、利払日が3月、6月、9月、12月の各末日となっており、利息計算期間は各利払日の翌日から利払日までである。
- ※端数利息は1年を365日として計算し、1円未満の端数は切り捨てること。
- 3.8月18日 A社は甲社の社債1枚(額面200万円)を100円当たり97.5円で売却した(売却代金に端数利息を含む)。売却代金は来月末に受け取る。
- ※購入単価は移動平均法を用いて計算すること。
- 4.9月30日 甲社の社債の利払日が到来した。
- 5.9月30日 A社は決算日を迎えた。決算日の甲社の社債の時価は100円当たり93円である。
No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
1 | 売買目的有価証券 | 1,850,000 | 当座預金 | 1,850,000 |
2 | 売買目的有価証券 | 3,850,000 | 未払金 | 3,875,205 |
有価証券利息 | 25,205 | |||
3 | 未収入金 | 1,950,000 | 売買目的有価証券 | 1,900,000 |
有価証券売却益 | 36,576 | |||
有価証券利息 | 13,424 | |||
4 | 現金 | 50,410 | 有価証券利息 | 50,410 |
5 | 有価証券評価損 | 80,000 | 売買目的有価証券 | 80,000 |
【解説】
No1 取得原価 = (額面2,000,000円 ÷ 100円 × 90円) × 社債1枚 + 買取手数料50,000円 = 1,850,000円
※6月30日が利払日であるため端数利息は発生しません。
No2 取得原価 = (額面2,000,000円 ÷ 100円 × 94円) × 社債2枚 + 買取手数料90,000円 = 3,850,000円
端数利息 = 額面200万円 × 利率5% × 経過日数46日(7月1日から8月15日まで) ÷ 365日 × 社債2枚 = 25,205.479...→25,205円(切り捨て)
※社債の利息は、額面金額に利率を掛けて計算します。
経過日数46日は7月1日~31日で31日、8月1日~15日までで15日。合計で46日になります。
No3 売却代金 額面2,000,000円 ÷ 100円 × 97.5円 × 社債1枚 = 1,950,000円
端数利息 = 額面200万円 × 利率5% × 経過日数49日(7月1日から8月18日まで) ÷ 365日 × 社債1枚 = 13,424.657...→13,424円(切り捨て)
売却益 1,950,000円 - 1,900,000(後述)- 13,424 = 36,576円
※売却した有価証券の金額1,900,000円の計算は後述。
No4 利息の計算 額面2,000,000円 × 利率5% × 経過日数日92日(7月1日から9月30日まで) ÷ 365日 × 社債2枚 = 50,410.958...→50,410円(切り捨て)
※期限到来済みの利札は現金として扱う。
No5 決算日の時価による評価額 額面2,000,000 ÷ 100円 × 93円 × 社債2枚 = 3,720,000円 < 取得原価 1,900,000円 × 社債2枚 = 3,800,000円(評価損の発生)
評価損 = 3,800,000円 - 3,720,000円 = 80,000円
※仕訳例3.移動平均法による単価計算について
移動平均法による単価計算とは、「No3.の時点で、これまでに取得した甲社の社債の平均単価を求める」ということです。
1株当たりの購入単価 = (No1の取得原価 1,850,000円 + N2の取得原価 3,840,000円)÷(No1の取得枚数 1枚 + No2の取得枚数 2枚)= 1,900,000円
まとめ
今回は売買目的有価証券の手続と仕訳処理を解説しました。社債を例にしましたが、社債や利息の設定、単価計算方法など、問題文をよく読まないと正解にはたどり着けません。利札の処理(現金の範囲)も含めて全て理解しておく必要があります。
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