満期保有目的債券とは|仕訳と償却原価法を解説(簿記2級)
記事最終更新日:2023年11月24日
記事公開日:2017年8月20日
「満期保有目的債券」は有価証券の会計上の区分の1つです。売買目的有価証券と異なり、期末日に時価評価せずに取得原価で評価しますが、「償却原価法」を適用する場合があります。
本記事では、簿記2級で学習する「満期保有目的債券」について、基本的な仕訳及び「償却原価法」を解説します。
※本記事の一部では、「補足」として、理解に役立つ簿記2級の出題範囲外の会計知識(会計学の考え方)を記載しています(上級者・実務家レベル)。
※有価証券全般に共通する基本的な仕訳(取得・端数利息・売却・配当金・利息)や保有目的による有価証券の種類(売買目的有価証券、その他有価証券など)、各有価証券の「表示科目」については、下記の記事で解説しています。
満期保有目的債券とは|仕訳と償却原価法を解説(簿記2級)
目次
満期保有目的債券とは
「満期保有目的債券」とは、満期まで保有する意図を持って取得した債券(公社債。国債・社債・地方債のこと)をいいます。
名称の通り、取得後、途中で売却せずに満期日まで保有する債券です。
債券について
「債券」とは、資金調達を目的として会社や国、地方自治体など(以下、発行体)が発行する有価証券をいい、券面には額面(借入での返済額)や満期日、金利の利率や利息の支払日など、金銭消費貸借契約(借入金)と類似した内容が表示されます。
<債券の特徴>
- ・保有者は利息を受け取れる。
- ・満期日に発行体は保有者に額面金額を支払う(満期償還)
- ・保有者は満期まで保有せずに、証券市場などで売却できる。
- ・額面よりも高い金額でも低い金額でも発行・売買できる。
会計処理の特徴
仕訳・勘定科目と財務諸表上の表示に分けて解説すると、次の通り。
仕訳・勘定科目
満期保有目的債券の増減は、「満期保有目的債券(資産に属する勘定科目)」で仕訳します。
また、満期保有目的債券は、原則として期末日に時価評価せずに「取得原価」のまま評価します(理由は「(補足)満期保有目的債券を期末日に時価評価しない理由」を参照)。
ただし、債券を額面より高い金額または低い金額で取得した場合において、額面金額との差額が「金利の調整と認められる場合」には、期末日の「満期保有目的債券」には「償却原価法(後述)」を適用し、帳簿価額に金利調整額を増減した金額を「満期保有目的債券」の貸借対照表上の価額とします。当該金利調整額は通常の債券利息と同じく「有価証券利息(収益に属する勘定科目)」で仕訳します。
財務諸表上の表示
仕訳上は「満期保有目的債券」で記帳しますが、貸借対照表上では一年以内に満期が到来する場合には「有価証券」で表示し、一年を超える場合には「投資有価証券」で表示します。
また、「有価証券利息」は金利調整額も含めて、当期の収益として損益計算書に表示します。
(補足)満期保有目的債券を期末日に時価評価しない理由
「満期保有目的債券」については、満期まで保有するため、その間、途中で売却を想定していません。
従って、売買を目的とする「売買目的有価証券」とは異なり、「満期保有目的債券」を期末日に時価で評価したとしても、近い将来に売却する訳ではないため、財務諸表の利用者にとって、あまり有用な情報にはなりません。
以上の理由から、「満期保有目的債券」は期末日に時価で評価せず、原則として取得原価で貸借対照表に掲載します。
(補足)償却原価法を適用する理由
例えば、債券を額面よりも低い価額で購入した場合を考えると、満期日には額面金額の入金があるため、額面金額と取得原価との差額は「儲け(収益)」になります。
そして当該差額が「金利(利率)の調整」として認められるような場合(債券に記載の金利が取得時の証券市場では低いため、利息差額の分だけ額面よりも低い価額で取得できた場合)には、「利息は時の経過に応じて発生する」ことから、「満期保有目的債券の価値は時の経過に応じて増加する」と考えることができます。
従って、期末日には、当該差額のうち当期の利息と考えられる金額を「有価証券利息」として貸方に計上し、「満期保有目的債券」の借方に同額を記入することで、貸借対照表上の「満期保有目的債券」の価額を増加させます。
(補足)時価・実質価額が著しく下落した場合
※簿記2級の範囲外
上記の通り、「満期保有目的債券」は原則として取得原価で期末評価します。ただし、時価(実質価額)が著しく低下した場合には売買目的有価証券のように評価損を計上します(評価益は計上しません)。
満期保有目的債券の仕訳
基本的な取引について、仕訳一覧を示した後に、「期末日の償却原価法に関する仕訳」を解説します。
基本仕訳の一覧
次の通り。
※仕訳の内容は、冒頭で紹介した関連記事で解説しています。
取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
取得(端数利息の支払) | 満期保有目的債券 | ××× | 現金預金など | ××× |
有価証券利息 | ××× | |||
未収利息の計上 | 未収収益 | ××× | 有価証券利息 | ××× |
利息の受取(クーポン利払日の到来) | 現金 | ××× | 有価証券利息 | ××× |
期末評価(原則) | 仕訳なし(取得原価のまま) | |||
期末評価(償却原価法)※ | 満期保有目的債券 | ××× | 有価証券利息 | ××× |
※債券を額面より高い金額または低い金額で取得した場合において、取得原価と額面金額との差額が金利の調整と認められる場合 | ||||
※「額面金額 > 取得原価」の場合の仕訳 |
<仕訳例>
1.満期まで保有する目的で、社債を100で購入し、端数利息1とともに来月支払う。
2.決算日。決算整理仕訳として、上記1の社債について未経過利息2を計上する。
3.翌期首。再振替仕訳を記帳する。
4.上記1の社債のクーポン(利札)5の支払日が到来した。
問題 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
1 | 売買目的有価証券 | 100 | 未払金 | 101 |
有価証券利息 | 1 | |||
2 | 未収収益 | 2 | 有価証券利息 | 2 |
3 | 有価証券利息 | 2 | 未収収益 | 2 |
4 | 現金 | 5 | 有価証券利息 | 5 |
償却原価法(金利の調整)と仕訳
満期保有目的債券は原則として取得原価で評価します。
しかし、債券を額面より高い金額または低い金額で取得した場合において、額面金額との差額が「金利の調整と認められる場合」には、その差額を償還期限まで、決算日毎に毎期一定の方法で計算された金額を、満期保有目的債券の帳簿残高に加減します。
月割りで計算します。
この「毎期一定の方法」のことを「償却原価法」といいます。金利の調整であるため有価証券利息で仕訳し、満期保有目的債券に加減します(決算整理仕訳として記帳)。
<仕訳例>
・決算日。満期保有目的債券(取得価額88。額面金額100。当期取得。取得日から決算日までの期間3ヶ月。取得日から満期までの期間36ヶ月)に対して償却原価法を適用する。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
満期保有目的債券 | 1 | 有価証券利息 | 1 |
<有価証券利息(償却原価法)の計算>
(額面金額100 - 取得価額88)× 当期経過月3ヶ月/満期までの月数36ヶ月 = 1
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