過去の誤謬の注記と取扱いを解説
記事公開日:2022年7月14日
会計方針の変更の取扱いと併せて学ぶ論点として「過去の誤謬」があります。
ここでは、過去の誤謬について、その取扱いや注記事項を併せて会計基準上のポイントを解説します。
誤謬とは
誤謬とは、原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、又はこれを誤用したことによる、次のような誤りをいいます。
<誤謬の例>
- (1)財務諸表の基礎となるデータの収集又は処理上の誤り
- (2)事実の見落としや誤解から生じる会計上の見積りの誤り
- (3)会計方針の適用の誤り又は表示方法の誤り
<誤謬の例>
- (例)前期に外部販売した商品及び製品を、誤って商品及び製品残高として計上していた。
- →結果、前期に売上原価が過小計上されていた。
会計方針の変更との違い
「会計方針の変更」とは、一般に公正妥当と認められた会計方針から、他の一般に公正妥当と認められた会計方針に変更することをいいます。
上記の例に当てはめると、誤謬であった売上原価の過少計上の部分は、一般に公正妥当と認められた会計方針ではないため、「会計方針の変更」には該当しません。
「表示方法の変更」「会計上の見積りの変更」も同様の考え方で違いを理解できます。
過去の誤謬の取扱い
過去の財務諸表における誤謬が発見された場合には、次の方法により修正再表示します。
<過去の誤謬の取扱い>
- (1)表示期間より前の期間に関する修正再表示
- →表示する財務諸表のうち、最も古い期間の期首の資産、負債及び純資産の額に反映
- (2)表示する過去の各期間の財務諸表
- →当該各期間の影響額を反映
※修正再表示:過去の財務諸表における誤謬の訂正を財務諸表に反映すること
企業会計原則と現行会計基準までの経緯
企業会計原則上では、過去の誤謬は「前期損益修正」として、当期の損益として修正する方法が示されていました。
引用元:企業会計原則
注解「注12 特別損益項目について(損益計算書原則六)
特別損益に属する項目としては、次のようなものがある。
(1)(省略)
(2)前期損益修正
イ 過年度における引当金の過不足修正額
ロ 過年度における減価償却の過不足修正額
ハ 過年度におけるたな卸資産評価の訂正額
ニ 過年度償却済債権の取立額
なお、特別損益に属する項目であっても、金額の僅少なもの又は毎期計上的に発生するものは、経常損益計算に含めることができる。」
しかし、国際会計基準や米国会計基準では、当時から、誤謬は修正再表示を行い、期間比較を可能とする有用な情報を開示していました。
そして、国際的な会計基準とのコンバージェンスを図る目的もあったことから、日本の現行の会計基準(「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」)では、上記「過去の誤謬の取扱い」の通り、修正再表示することになりました。
注記事項
過去の誤謬の修正再表示を行った場合、次の事項を注記します。
<注記事項>
- (1)過去の誤謬の内容
- (2)表示期間のうち過去の期間について、財務諸表の主な表示科目に対する影響額及び1株当たり情報に対する影響額
- (3)表示されている財務諸表のうち、最も古い期間の期首の純資産の額に反映された、表示期間より前の期間に対する修正再表示の累積的影響額
会計基準
※2022年7月14日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。
・会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(企業会計基準第24号)
・会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第24号)
・財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
・企業会計原則(昭和57年4月20日 大蔵省企業会計審議会)
簿記1級の穴埋め問題や公認会計士試験(短答式)を中心に出題されます。経理実務では開示担当者として活躍したい人が押さえておくべき論点です。