会計上の見積りの変更と注記事項を解説
記事公開日:2022年7月14日
会計方針の変更の他にも似た用語がいくつか存在します。
本記事ではそのうち、会計上の見積りの変更と注記事項について、会計基準上のポイントを解説します。
会計上の見積りとは
会計上の見積りとは、資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出することをいいます。
会計方針
会計方針とは、財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続きいいます。
<両者の比較例>
- 会計方針:貸倒引当金の計上基準
- 会計上の見積り:貸倒実績率による貸倒引当金見込額の算定
開示の目的
会計上の見積りの金額を合理的に算出するための方法や情報については、財務諸表作成時にどの程度入手可能であるか様々であり、その結果、財務諸表に計上する金額の不確実性の程度も様々となります。
従って、財務諸表に計上した金額のみでは、当該金額が含まれる項目の情報修正などによる金額の修正が、翌年度の財務諸表に影響を及ぼす可能性があるかどうかを財務諸表利用者が理解することは困難です。
以上から、会計上の見積りのうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目を識別し、当該会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報の開示を目的としています。
会計上の見積りの変更
会計上の見積りの変更とは、新たに入手可能となった情報に基づいて、過去に財務諸表を作成する際に行った会計上の見積りを変更することをいいます。
<会計上の見積りの変更例>
- (例)新たに得られた情報に基づき、備品の耐用年数を従来の10年から6年に見直した。
会計上の見積りの変更は、原則として、当該変更が変更期間のみに影響する場合には、当該変更期間に会計処理を行い、当該変更が将来の変更期間にも影響する場合には、将来にわたって会計処理を行います。
注記事項
識別した項目に関する会計上の見積もりについて、それぞれを独立して注記します。
<注記事項-会計上の見積り>
- (1)当年度の財務諸表に計上した金額
- (2)会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報
- ・金額の算出方法
- ・金額の算出に用いた主な仮定
- ・翌年度の財務諸表に与える影響
- ・その他
会計上の見積もりの変更については、次の注記を行います。
<注記事項-会計上の見積りの変更>
- (1)変更内容
- (2-1)当期に影響を及ぼす場合:当期への影響額
- (2-2)当期ではなく将来の期間に影響を及ぼす可能性があり、かつ、合理的に見積れる場合:将来への影響額
- ※将来影響額を合理的に見積れない場合には、その旨
その他の留意事項
その他、会計基準上のポイントを記載します。
会計方針の変更との区別が困難な場合
会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合には、会計上の見積りの変更と同様に取扱い、遡及適用は行いません(ただし注記は会計方針についても行う。詳細は会計基準を参照)。
当該取扱いは、有形固定資産等の減価償却方法及び無形固定資産の償却方法にも適用します。
<有形固定資産の減価償却方法の変更>
- (例)機械装置の減価償却方法を定額法から定率法に変更(正当な理由による)
- →会計方針の変更ではなく、会計上の見積りの変更と同様に取扱い、遡及適用しない
過去の誤謬かどうかの判定
会計上の見積りの変更か、それとも過去の誤謬なのかの判断は次の通り考えます。
<判断のポイント>
- ・見積り時点で合理的、かつ、以降の見積りの変更も合理的かどうか
- ・その時点で存在していた不確実性の性質、その後の変化の状況及び変更に至った経緯等を踏まえて判断
- (例)固定資産の耐用年数の変更
- (1)過去に定めた耐用年数がその時点で合理的、かつ、それ以降の変更も合理的な方法に基づく場合
- →会計上の見積り
- (2)過去の耐用年数がその時点での合理的な見積りでなく、事後的に合理的なものに変更した場合
- →過去の誤謬
過去の誤謬に該当する場合には、過去の財務諸表に対しても遡及適用します。
会計基準
※2022年7月14日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。
・会計上の見積りの開示に関する会計基準(企業会計基準第31号)
・会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(企業会計基準第24号)
・会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第24号)
・財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則
簿記1級の穴埋め問題や公認会計士試験(短答式)を中心に出題されます。経理実務では開示担当者として活躍したい人が押さえておくべき論点です。