15-4 支配獲得後の利益配分
支配を獲得した後に、毎年行う代表的な連結修正仕訳が、2つあります。
今回は、そのうちの1つである子会社の利益配分について、解説します。
支配獲得後の利益配分とは
50%超の株式を取得(支配獲得)して子会社にした後に、子会社で発生した利益の配分をいいます。
子会社が損失を発生させる場合もあるので、「子会社損益の配分」や「子会社損益の振り分け」といった言葉を使うこともあります。
支配獲得前の利益との違い
支配前の利益の累積( = 利益剰余金)は、資本金などと一緒に株主資本として、資本連結の仕訳で、親会社が保有する子会社株式と相殺消去しました。
これに対して、支配後の子会社利益は、内部取引に該当しないため、連結修正仕訳で消去しません。
支配後の子会社の株主資本は、親会社のものです。支配後の利益は、連結修正仕訳によって消去することなく、親会社のB/S、P/Lと合算して、連結B/S、P/Lを作ります。
非支配株主の存在
しかし、非支配株主が存在する場合には、事情が異なります。この点、解説します。
例-支配獲得後の利益配分
当期は×2年3月31日。×1年3月31日に、ある会社の株式80%を取得して、支配獲得して子会社とした後、1年間活動を行った初めての決算とします。
子会社の利益と非支配株主
子会社の支配を獲得した後、1年間、子会社は活動した結果、利益を獲得しました。
もし仮に、開始仕訳のみを連結修正仕訳とした場合、連結財務諸表は次の通り。
このままですと、親会社は子会社の株式を20%保有する非支配株主から、次のような意見を言われるはずです。
「子会社の利益のうち、20%は私たち非支配株主のものだ。」
確かに、子会社の20%は親会社のものではなく、非支配株主のものです。
連結修正仕訳-支配獲得後の利益配分
この点を、適切に連結会計に反映するためには、子会社の当期利益のうち20%を、非支配株主に振り替える連結修正仕訳が必要です。
借方に「非支配株主に帰属する当期純利益(費用に属する勘定科目)」を記入し、貸方に「非支配株主持分(純資産に属する勘定科目)」を記入して仕訳します。
もし、子会社が利益ではなく、損失を当期に計上した場合には、借方に「非支配株主持分」を記入し、貸方に「非支配株主に帰属する当期純損失(収益に属する勘定科目)」を記入して仕訳します。
取引 | 子会社P/L | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|---|
子会社利益の配分 | 純利益 | 非支配株主に帰属する当期純利益 | ××× | 非支配株主持分 | ××× |
純損失 | 非支配株主持分 | ××× | 非支配株主に帰属する当期純損失 | ××× |
この連結修正仕訳を反映させた結果、連結貸借対照表は次の通り。
<補足>非支配株主に帰属する当期純利益(損失)勘定の性質
厳密には、損益に属する勘定科目ではありません。
しかし、最終的には、連結P/L上にて当期純利益から控除(非支配株主に帰属する当期純利益の場合)、または加算(非支配株主に帰属する当期純損失の場合)するため、この点において、損益と同様の性質を持ちます。
連結会計の解説上も、損益科目扱いにした方が分かりやすいので、「非支配株主に帰属する当期純利益(損失)」を損益の勘定科目として、解説しています。
仕訳のポイント
「非支配株主持分」に着目します。
<仕訳のポイント:支配後の子会社損益の配分>
- ・子会社利益が発生→非支配株主持分は増加→貸方に非支配株主持分勘定を計上
- ・子会社損失が発生→非支配株主持分は減少→借方に非支配株主持分勘定を計上
「非支配株主に帰属する当期純利益(損失)」にも言及して、仕訳を考えると次の通り(子会社利益の配分の場合)。
<仕訳の考え方>
- ・子会社利益の発生
- →非支配株主に利益を配分
- →親会社の取り分は減る
- →「非支配株主に帰属する当期純利益勘定」は費用と同様の勘定科目として捉える
- →「非支配株主に帰属する当期純利益勘定」を借方に記入する
- →「非支配株主勘定」は純資産に属する勘定科目
- →子会社利益の配分は非支配株主持分を増やす
- →「非支配株主勘定」を貸方に記入する
翌年の仕訳-支配獲得後の利益配分
さらに1年後の×3年3月31日。この1年間でも、子会社は利益を獲得しました。
この場合、×3年3月31日の決算では
(1)×2年3月31日決算の開始仕訳
(2)×3年3月31日決算の連結修正仕訳
を仕訳します。
(1)×2年3月31日決算の開始仕訳
開始仕訳は、1年前の決算である×2年3月31日決算の連結修正仕訳のうち、損益の勘定科目を「利益剰余金」に修正します。
従って、「非支配株主に帰属する当期純利益」と「非支配株主に帰属する当期純損失」という、2つの損益の勘定科目を「利益剰余金」に修正します。
取引 | 子会社P/L | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|---|
子会社損益の配分 | 純利益 | 利益剰余金 | ××× | 非支配株主持分 | ××× |
純損失 | 非支配株主持分 | ××× | 利益剰余金 | ××× |
例えば、×2年3月31日決算の子会社が、1千万円の利益を計上していた場合は、次の通り
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
利益剰余金 | 2,000,000 ※ | 非支配株主持分 | 2,000,000 |
※利益10,000,000円 × 非支配株主比率20% = 2,000,000円
(2)×3年3月31日決算の連結修正仕訳
×2年3月31日決算の時と同様に、仕訳します。
例えば、×3年3月31日決算の子会社が300万円の損失を計上した場合は、次の通り
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
非支配株主持分 | 600,000 | 非支配株主に帰属する当期純損失 | 600,000 |
※利益3,000,000円 × 非支配株主比率20% = 600,000円
今回は、開始仕訳ではないので、「利益剰余金」には修正しません。
翌年の仕訳(まとめ)
以上から、×3年3月31日決算(子会社利益の配分)の仕訳は次の通り。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
利益剰余金 | 2,000,000 | 非支配株主持分 | 2,000,000 |
非支配株主持分 | 600,000 | 非支配株主に帰属する当期純損失 | 600,000 |
仕訳問題
- P社は×0年度にS社の発行済み株式数の80%を保有しており子会社としている。
- S社は×1年度に100万円、×2年度に200万円の利益を計上した。
- (問題)×2年度の連結修正仕訳を示しなさい。
<開始仕訳(×1年度)>
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
利益剰余金 | 200,000 | 非支配株主持分 | 200,000 |
<連結修正仕訳(×2年度)>
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
非支配株主に帰属する当期純利益 | 400,000 | 非支配株主持分 | 400,000 |