日商簿記3級 貸倒引当金と貸倒損失の仕訳
更新日:2021年1月4日
公開日:2017年11月26日
前回は電子記録債権・債務の手続きや仕訳について解説しました。
今回は貸倒引当金と貸倒損失の仕訳について説明します。
貸倒とは
貸倒(かしだおれ 「貸し倒れ」ともいいます)とは、得意先が倒産したなどの理由により、売掛金や受取手形などの債権が回収できない状態のことをいいます。
貸倒引当金とは
貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)とは、貸し倒れになる前に予め費用計上するために、貸し倒れが発生しそうな債権に対して、過去の貸倒実績(かしだおれじっせき)の割合などに基づいて事前に見積もった損失額のことをいいます。
【補足】貸倒引当金勘定の性質について
貸倒引当金は、売掛金や受取手形などの債権金額から差し引く形で貸借対照表に表示します。
売掛金や受取手形などの債権から直接マイナスしないのは、貸倒引当金を仕訳した時点では実際には貸し倒れは発生していないからです。実際に貸し倒れが発生した時点で売掛金や受取手形などの債権をマイナスします。
以上から、貸倒引当金勘定は、資産や負債などには属せず、「評価勘定(ひょうかかんじょう)」という特殊な勘定科目として捉えられます。
貸倒引当金と貸倒損失の仕訳
次の通り、いくつかのケースに分けて解説します。
(1)貸倒引当金を計上する場合
①通常の仕訳処理
貸倒引当金繰入額(かしだおれひきあてきんくりいれがく)勘定(費用に属する勘定科目)と貸倒引当金勘定(資産の控除科目)を使用して仕訳します。
売掛金や受取手形などの債権のうち、貸し倒れが発生しそうな債権が存在する場合には、貸倒見積額(かしだおれみつもりがく)に貸倒実績率などの割合を乗じて計算した金額について、借方は貸倒引当金繰入勘定を使って記入し貸方は貸倒引当金勘定を使って記入します。
②設定した貸倒引当金が残高よりも金額が小さい場合
例えば前回設定した貸倒引当金が100だけ残高が残っており、今回貸倒引当金を見積もったところ、80だった場合が該当します。
この場合には、差額20は貸倒引当金を減少します。具体的には、借方に貸倒引当金勘定を記入し、貸方には「貸倒引当金戻入(かしだおれひきあてきんもどしいれ)勘定(収益に属する勘定科目)」を記入して仕訳処理します。
※戻入は「れいにゅう」と言うこともあります。
(2)貸し倒れが発生した場合
①十分な貸倒引当金を計上していた場合
貸倒が発生した場合には、事前に貸倒引当金を計上していた場合には、貸倒引当金を減少させるべく借方に貸倒引当金勘定を記入し、貸し倒れた売掛金や受取手形などの債権も減少するため貸方に売掛金勘定や受取手形勘定などを記入します。
注意するのは「いつ発生した売上取引に関する貸し倒れか?」という点です。
前期までの売上取引に関する売掛金や受取手形であれば、前期に貸倒引当金を設定しているため、貸倒引当金を減少させて仕訳できます。
しかし、当期の売上取引の貸し倒れの場合は、この売上に対して貸倒引当金は設定していません。
従って、たとえ十分な貸倒引当金を計上していた場合であっても貸倒引当金を減少させて仕訳してはいけません。
以上から当期の売上取引の貸し倒れの場合は、次の「②貸倒引当金が不足している場合」と同様に貸倒損失勘定にて仕訳します。
②貸倒引当金が不足している場合
貸倒額と貸倒引当金の差額は「貸倒損失勘定(費用に属する勘定科目)」にて仕訳記入します。
③貸倒引当金を計上していなかった場合
貸倒額は全て貸倒損失勘定を使用して仕訳処理します。
(3)過去に貸倒処理した債権を回収した場合
この場合、貸し倒れた債権は貸倒時の仕訳処理に減少しているため、残高は残っていません。
そこで、貸方には「償却債権取立益(しょうきゃくさいけんとりたてえき)勘定(収益に属する勘定科目)」を記入して仕訳します(借方には現金預金などの勘定科目を記入します)。
貸倒引当金と貸倒損失の仕訳(まとめ)
以上をまとめると次の通り。
出来事 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | |
---|---|---|---|---|---|
貸倒引当金の設定 | 貸倒引当金残高 < 今回見積額の場合 | 貸倒引当金繰入 | ××× | 貸倒引当金 | ××× |
貸倒引当金残高 > 今回見積額の場合 | 貸倒引当金 | ××× | 貸倒引当金戻入 | ××× | |
貸し倒れの発生 | 十分な貸倒引当金が存在する場合 | 貸倒引当金 | ××× | 売掛金など | ××× |
貸倒引当金が不足している場合 | 貸倒引当金 | ××× | 売掛金など | ××× | |
貸倒損失 | ××× | ||||
貸倒引当金を計上していない場合 ※当期売上の場合も含む | 貸倒損失 | ××× | 売掛金など | ××× | |
過去に貸し倒れた債権を回収した場合 | 現金預金など | ××× | 償却債権取立益 | ××× |
仕訳例
- 1.A社の取引先B社が倒産した結果、売掛金10万円が貸し倒れになった。貸倒引当金は計上していない。
- 2.A社は今回決算にて売掛金300万円と受取手形200万円の5%を貸倒額として見積もった。
- 3.A社の取引先C社が倒産した結果、前期に売上計上した売掛金10万円が貸し倒れになった。
- 4.A社の取引先D社が倒産した結果、前期に売上計上した受取手形20万円が貸し倒れになった。
- 5.上記2.にて貸倒引当金設定前に貸倒引当金の残高が30万円である場合の仕訳をきりなさい。
No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|---|
1 | 貸倒損失 | 100,000 | 売掛金 | 100,000 |
2 | 貸倒引当金繰入 | 250,000 | 貸倒引当金 | 250,000 |
3 | 貸倒引当金 | 100,000 | 売掛金 | 100,000 |
4 | 貸倒引当金 | 150,000 | 受取手形 | 200,000 |
貸倒損失 | 50,000 | |||
5 | 貸倒引当金 | 50,000 | 貸倒引当金戻入 | 50,000 |
- 【解説】
- No1.貸倒引当金は設定されていないため、貸倒損失勘定を使用します。
- No2.(300万円 + 200万円) × 5% = 250,000円
- No4. No2.で25万円を貸倒引当金として設定。No3.で10万円減少したため残額は15万円。受取手形20万円との差額5万円は貸倒引当金を設定していないので、貸倒損失勘定で仕訳処理します。
- No5. 貸倒引当金戻入額:貸倒引当金残高30万円 - 今回貸倒引当金見積額25万円 = 5万円 従って5万円だけ貸倒引当金が多いので、減少させるために貸倒引当金戻入勘定を使用します。
まとめ
今回は貸倒引当金と貸倒損失の仕訳について解説しました。様々な出題ケースが想定されますので、理解しながら仕訳パターンを覚え応用問題にも対応できるようにしておきましょう。
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