連結包括利益計算書とは|概要、経緯や表示区分・方法を解説
記事公開日:2022年6月23日
連結財務諸表の中でも連結包括利益計算書は、最も新しく制定された開示書類です。
本記事では、連結包括利益計算書とは何かについて、概要や経緯、表示区分・方法を併せて、会計基準上のポイントを解説します。
連結包括利益計算書とは
連結包括利益計算書(連結C/I Comprehensive Income)とは、親会社が企業集団の会計期間における包括利益を報告するために作成する開示書類をいいます。
<連結包括利益計算書のひな形>
包括利益
包括利益とは、ある企業の特定期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分をいいます。
「当該企業の純資産に対する特定所有者」には、当該企業の株主のほか、当該企業の発行する新株予約権の所有者が含まれ、連結財務諸表においては、当該企業の子会社の非支配株主も含まれます。
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その他の包括利益
その他の包括利益とは、包括利益のうち当期純利益に含まれない部分をいいます。包括利益の各項目は、貸借対照表では「評価・換算差額等」、連結貸借対照表では「その他の包括利益累計額」の名称で表示されます。
<その他の包括利益の例>
- ・その他有価証券評価差額金
- ・繰延ヘッジ損益
- ・為替換算調整勘定
- ・退職給付に係る調整額
- ・持分法適用会社に対する持分相当額
連結財務諸表におけるその他の包括利益には、「親会社株主に係る部分」と「非支配株主に係る部分」が含まれます。
目的
期中に認識された取引及び経済的事象(資本取引を除く)により生じた純資産の変動を報告するとともに、その他の包括利益の内訳項目をより明確に開示することです。
包括利益に関する情報は、投資家等の財務諸表利用者が企業全体(企業集団)の事業活動について検討するのに役立つことが機体されるとともに、連結貸借対照表との連結を明示することを通じて、連結財務諸表の理解可能性と比較可能性を高め、また、国際的な会計基準とのコンバージェンスにも資するものと考えられます。
連結財務諸表上の位置付け
連結損益計算書といった当期純利益に関する情報と併せて利用することにより、企業活動の成果についての情報の全体的な有用性を高める役割を果たします。連結包括利益計算書が新しく連結財務諸表として開示されることによって、利害関係者は「その他の包括利益」の変動にも注目しやすくなります。
経緯
これまで日本の会計基準では、包括利益の表示を定めていませんでした。その他の包括利益に関する項目は、連結貸借対照表では「その他の包括利益累計額」に表示され、当期変動額は連結株主資本等変動計算書に表示されるものの、その他の包括利益の当期変動額と当期純利益との合計額を表示する定めはありませんでした。
国際財務報告基準(IFRS)及び米国会計基準においては、包括利益の表示の定めが平成9年(1997年)に設けられ、平成22年(2010年)には、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)がそれぞれ、包括利益の開示に関する公開草案を公開しました。
このような国際的な動向に対応するため、日本でも企業会計基準委員会主導の下、専門員会を設置して検討を進め、平成21年7月には「財務諸表の表示に関する論点の整理」を公表し、包括利益の開示書類の導入を短期的に検討する方向性を示しました。その後、公開草案の公表・検討を経た後に、平成22年6月に「包括利益の表示に関する会計基準」を公表。平成23年3月31日以後終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から適用されました。
作成基準
1.基本原則
連結包括利益計算書は、親会社及び子会社の純資産の増減額を基礎とし、連結会社相互間の取引高の相殺消去及び未実現損益の消去等の手続きを経て作成します。
<引用元:連結財務諸表規則>
- 「第七条の二 連結包括利益計算書は、連結財務諸表提出会社の連結会計年度に対応する期間に係る連結会社の純資産の増加又は減少の金額を基礎として作成しなければならない。」
2.1計算書方式と2計算書方式
連結包括利益計算書の表示方法には、連結損益計算書との関係において、「1計算書方式」と「2計算書方式」が認められています。
<連結C/Iの表示方法>
- ・1計算書方式:当期純利益を構成する項目と、その他の包括利益の内容を「単一の計算書(連結損益及び包括利益計算書)」に表示する方法
- ・2計算書方式:当期純利益を構成する項目を表示する第1の計算書(連結損益計算書)と、その他の包括利益の内訳を表示する第2の計算書(連結包括利益計算書)からなる方法
本記事では、単独で包括利益を表示する「2計算書方式」のひな形を掲載して解説しています。
3.連結会社相互間の取引高、未実現損益の消去
連結会社相互間における商品の売買その他の取引に係る項目を相殺消去し、当該取引に伴って発生した未実現損益は消去します。
未実現損益の消去によって発生した一時差異には税効果会計を適用します。
表示区分・方法
連結包括利益計算書は、「当期純利益(又は損失)」「その他の包括利益」及び「包括利益」に区分して表示します。
そして、連結包括利益計算書本体の他、その他の包括利益に関する注記を記載します。
本体
当期純利益に、その他の包括利益の内訳項目を加減して包括利益を表示します。
その他の包括利益は、上記「連結包括利益計算書とは」の<その他の包括利益の例>に示した項目別に区分して「税効果控除後の金額」により表示します。ひな形には記載がありませんが、持分法適用会社で発生したその他の包括利益に対する投資会社の持分は、例えば「持分法適用会社に対する持分相当額」といった名称で表示します。
包括利益の金額は、内訳として「親会社株主に係る包括利益」及び「非支配株主に係る包括利益」を付記します。
注記事項
その他の包括利益の内訳項目毎に税効果控除前の金額を表示します、本記事では次の通り、「その他有価証券評価差額金の当期発生額」から、「組替調整額」を加減して「税効果調整前」を表示。その後、「税効果額」を控除して、連結包括利益計算書上の「その他有価証券評価差額金」と一致した金額を記載した注記を示します。
組替調整額
当期純利益を構成する項目のうち、当期又は過去の期間に、その他の包括利益に含まれていた部分を「組替調整額」といい、その他の包括利益の内訳項目ごとに注記します。
会計基準等
※2022年6月23日現在。リンク先の会計基準等は最新版でない場合があります。
・包括利益の表示に関する会計基準(企業会計基準第25号)
・財務諸表の表示に関する論点の整理(企業会計基準委員会)
・連結財務諸表に関する会計基準(企業会計基準第22号)
・連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則