工業簿記2級 直接原価計算のP/L作成|問題と解説(日商簿記2級)
記事最終更新日:2020年9月2日
記事公開日:2020年8月31日
今回は、直接原価計算のP/L作成の問題を掲載して解説します。
工業簿記2級 直接原価計算のP/L作成|問題と解説(日商簿記2級)
目次
種類別の勘定連絡図(個別、総合、標準、直接)
クリックすると、実際個別原価計算、実際総合原価計算、標準原価計算、直接原価計算それぞれの勘定連絡図(簿記2級で出題される典型的なケース)が別窓で開きます。
今回の学習はココ
直接原価計算のP/L作成の問題を掲載して解説します。工業簿記(原価計算)の種類でいうと直接原価計算の手続きに該当します。
<今回の学習ポイント>
- ・直接原価計算の損益計算書作成と固定費調整
- ・問題例(ズボンメーカーを例に)
- ・解説
直接原価計算(ちょくせつげんかけいさん)とは、コストを変動費と固定費に分類して原価を集計して損益計算書を作成する原価計算制度をいいます。
原価や費用設定の際に、短期的にコントロール可能な変動費と、すぐには増減させることができない固定費とを分類することで、より実現可能となる適切な原価・費用の目標を設定できるので、「目標利益→目標売上高→適切な目標製品単価」と合理的な計画を策定できます。
直接原価計算のP/L作成と固定費調整
全部原価計算のP/Lやデータを元にして、製品の固定費を調整することで直接原価計算のP/Lを作成します。
「変動売上原価」「変動製造マージン」「貢献利益」といった直接原価計算特有のP/L表示科目を使います。
直接原価計算の詳細な解説は下記の記事を参照。
問題例(直接原価計算のP/L作成)
今回は設例を用いて解説します(理解を深めるための問題)。
<問題例-CVP分析(貢献利益率と損益分岐点売上高)>
- 当社はズボンを製造販売している。来期の利益計画を策定して目標となる売上高を決定するため、当期の損益計算書(全部原価計算)から、直接原価計算の損益計算書を作成することにした。
- 損益データと損益計算書を掲載する。
- ・製品はズボン1種類。販売価格は1本1,500円
- ・固定費以外は全て変動費。また、期首、期末に仕掛品在庫は存在しない。
- 損益データと損益計算書を掲載する。
- (問題)直接原価計算の損益計算書を完成させましょう。
損益計算書(直接原価計算)
- (単位:円)
- 売上高 2,700,000
- ( )
- 期首製品有高 ( )
- 当期製品変動製造原価( )
- 合計 ( )
- 期末製品有高 ( )
- 差引 ( )
- ( ) ( )
- 変動販売費 ( )
- ( ) ( )
- 固定費 ( )
- 営業利益 ( )
1.損益計算書(全部原価計算)
- (単位:円)
- 売上高 2,700,000
- 売上原価
- 期首製品有高 205,000
- 当期製品製造原価 2,232,500
- 合計 2,437,500
- 期末製品有高 292,500
- 差引 2,145,000
- 売上総利益 555,000
- 販売費及び一般管理費 375,000
- 営業利益 180,000
2.固定費データ
項目 | 含まれる固定費(円) |
---|---|
期首製品有高 | 67,000 |
当期製品製造原価 | 585,200 |
期末製品有高 | 82,500 |
販売費及び一般管理費 | 240,000 |
解答
損益計算書(直接原価計算)
- (単位:円)
- 売上高 2,700,000
- 変動売上原価
- 期首製品有高 138,000
- 当期製品変動製造原価 1,647,300
- 合計 1,785,300
- 期末製品有高 210,000
- 差引 1,575,300
- 変動製造マージン 1,124,700
- 変動販売費 135,000
- 貢献利益 989,700
- 固定費 825,200
- 営業利益 164,500
解説1-直接原価計算のP/L表示科目
全部原価計算の損益計算書(一般的なP/L)と比較すると、直接原価計算のP/Lは表示科目に特徴があります。
直接原価計算のP/L
従って、本問の直接原価計算P/Lのうち、表示科目の穴埋めは次の通り。
損益計算書(直接原価計算)
- (単位:円)
- 売上高 2,700,000
- (変動売上原価)
- 期首製品有高 ( )
- 当期製品変動製造原価( )
- 合計 ( )
- 期末製品有高 ( )
- 差引 ( )
- (変動製造マージン) ( )
- 変動販売費 ( )
- (貢献利益) ( )
- 固定費 ( )
- 営業利益 ( )
解説2-変動売上原価の内訳と変動販売費
直接原価計算の売上原価は「変動売上原価」という表示科目の通り、固定費は含めずに変動費のみで構成されます。
従って、全部原価計算のP/Lの各売上原価の内訳金額から「2.固定費データ」の金額を差し引けば、計算できます。
変動販売費も同様です。
これらの金額を加減計算すれば、「合計」「差引」「変動製造マージン」「貢献利益」も求まります。
<ポイント:変動売上原価と変動販売費の計算>
- 期首製品有高 = (全)期首製品有高205,000円 - 固定費67,000円 = 138,000円
- 当期製品変動製造原価 = (全)当期製品製造原価2,232,500円円 - 固定費585,200円 = 1,647,300円
- 期末製品有高 = (全)期末製品有高292,500円 - 固定費82,500円 = 210,000円
- 変動販売費 = (全)販売費及び一般管理費375,000円 - 固定費240,000円 = 135,000円
損益計算書(直接原価計算)
- (単位:円)
- 売上高 2,700,000
- 変動売上原価
- 期首製品有高 ( 138,000)
- 当期製品変動製造原価(1,647,300)
- 合計 (1,785,300)
- 期末製品有高 ( 210,000)
- 差引 (1,575,300)
- 変動製造マージン (1,124,700)
- 変動販売費 (135,000)
- 貢献利益 (989,700)
- 固定費 ( )
- 営業利益 ( )
ただし、これまでに解説してきた通り、変動費のみであり、固定費が含まれない点がポイントです。
解説3-固定費の計算
直接原価計算のP/Lでは、「2.固定費データ」のうち「当期に発生した固定費」のみを計上します。
「2.固定費データ」のうち、当期に発生した固定費は「期首製品有高 67,000円」を除く3項目。
しかし、「期末製品有高 82,500円」は「当期製品製造原価 585,200円」に含まれています。「期末製品有高 82,500円」も含めてしまうと、82,500円だけ2重に計上してしまうことになります。
この点については、「売上原価 = 期首製品有高 + 当期製品製造原価 - 期末製品有高」で売上原価を計算しますが、この計算式の期末製品有高は当期製品製造原価の金額から期末製品の金額を差し引くために存在していることから理解できるはずです。
従って、当期に発生した固定費は「当期製品製造原価 585,200円」と「販売費及び一般管理費 240,000円」の合計になります。
<ポイント:固定費の計算>
- 固定費 = (固)当期製品製造原価585,200円 + (固)販売費及び一般管理費240,000円 = 825,200円
最後の営業利益も求まりますので、これですべて解答できました。
損益計算書(直接原価計算)
- (単位:円)
- 売上高 2,700,000
- 変動売上原価
- 期首製品有高 138,000
- 当期製品変動製造原価 1,647,300
- 合計 1,785,300
- 期末製品有高 210,000
- 差引 1,575,300
- 変動製造マージン 1,124,700
- 変動販売費 135,000
- 貢献利益 989,700
- 固定費 (825,200)
- 営業利益 (164,500)
解説4-営業利益の固定費調整(検算)
次の計算式を使って、計算が正しいかどうか検算しておきましょう。
<ポイント:固定費の調整方法(P/L作成)>
- 直接原価計算の営業利益 = 全部原価計算の営業利益 + 期首製品に含まれる固定費 - 期末製品に含まれる固定費
計算式を暗記だけに頼るとプラスマイナスを反対に覚えてしまう可能性がありますので、問題を解く度に考えて計算式を確認します。
<ポイント:期首製品の固定費調整(考え方)>
- (期首製品に含まれる固定費)
- 全部原価計算では当期の売上原価に含める
- →直接原価計算では当期ではなく、前期の売上原価に含める
- →直接原価計算の方が全部原価計算よりも売上原価は少なくなる
- →直接原価計算の営業利益はその分増える
- →全部原価計算の営業利益にプラスする
<ポイント:期末製品の固定費調整(考え方)>
- (期末製品に含まれる固定費)
- 全部原価計算では翌期の売上原価に含める
- →直接原価計算では翌期ではなく、当期の売上原価に含める
- →直接原価計算の方が全部原価計算よりも売上原価は大きくなる
- →直接原価計算の営業利益はその分減少する
- →全部原価計算の営業利益にマイナスする
この計算式を本問に当てはめると次の通り。
<ポイント:営業利益の固定費調整(検算)>
- 直接原価計算の営業利益 = 全部原価計算の営業利益180,000円 + 期首製品に含まれる固定費67,000円 - 期末製品に含まれる固定費82,500円 = 164,500円
直接原価計算の営業利益が正しいことが確認できました。
次の問題と解説
本社工場会計について解説します。他の論点も含めて勘定連絡図や仕訳を理解できているかどうかがポイント。
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