工業簿記2級 本社工場会計(工場会計の独立):原価計算入門
作成日:2017年5月19日 更新日:2018年6月5日
今回は、本社工場会計について解説します。
本社工場会計とは、工場に関する取引の記帳を本社から工場に移して工場が独立して取引の記帳管理を行うことで、本社と工場とで会計機能を分離させることをいいます。
下記に学習上のポイントを参考に記載しました。ご利用ください。
※この「原価計算入門」のサイトでは、2級レベルの工業簿記を、衣服メーカーを例として毎回解説しています。
種類別の勘定連絡図(個別、総合、標準)
クリックすると、実際個別原価計算、実際総合原価計算、標準原価計算それぞれの勘定連絡図(簿記2級で出題される典型的なケース)が別窓で開きます。
学習のポイント
1.本社工場会計 ①工場会計の独立
本社工場会計(工場会計の独立)
設定を用いて解説します。
設例
衣服メーカーはズボンを製造・販売しており、会計記帳は本社工場会計を採用している。材料と製品の倉庫は工場にある。一方、材料や賃金の支払いは本社がまとめて行っている。
工場で使用する勘定科目は次の通りである。
材料 賃金 製造間接費 仕掛品 製品 本社
問題次の取引について工場の仕訳を行いましょう。
(1)ズボンの主要材料である生地200枚を@100円で掛けで購入した。
(2)月末になったため、当月賃金の消費額を計上する。なお、直接工の作業時間は2,500時間(うち直接作業時間2,100時間、間接作業時間300時間、手待時間100時間)である。賃率は予定賃率(平均賃率)で計算しており、1,800円/時間を使用している。間接工への当月支払額は785,000円、前月未払支給額は、245,000円、当月未払金額は、255,000円である。
(3)当月棚卸の結果、材料の棚卸減耗費として45,000円を計上する。
(4)この衣服メーカーでは、ズボンの生産量を配賦基準として製造間接費を配賦している。①年間ズボン生産量:42,000本(期待実際操業度)②今月の実際操業度:3,600本 ③年間製造間接費予算:15,120,000円。これらのデータを使用して当月の製造間接費として、各製造指図書に配賦した。
(5)当月に完成したズボン2,000本を倉庫に搬入した。1本あたりの製品原価は975円だった。
工場会計
今回の問題では、材料勘定、賃金勘定、製造間接費勘定、仕掛品勘定、製品勘定、本社勘定を工場会計で使用します。
また、「材料と製品の倉庫は工場にある」と指示があります。
従って、材料の購入・消費、労務費の消費、工場経費(製造間接費)の消費、製品の倉庫への搬入など、通常、工場で行う活動については工場会計で処理すると考えることができます。
このような取引であれば、これまでに解説した仕訳と違いはありません。
これに対して本社で行う取引、例えば今回の問題でいえば材料や賃金の支払いですが、これらの取引は今まで解説した仕訳とは異なります。
本社工場会計ではない場合に、材料を掛けで購入した場合には
(借方)材料 ×× (貸方)買掛金 ××
といった仕訳になります。
しかし、今回の問題では工場側では買掛金勘定が存在しません。
また、問題には材料の支払は本社で行うとあります。すなわち、「貸方の買掛金は工場側の仕訳では使用できない(使用しない)」ということを意味します。
本社勘定の使用
この場合には次の通り、仕訳を行います。
(借方)材料 ×× (貸方)本社 ××
賃金の支払いなども同様です。未払金や未払費用、預り金ではなく、まとめて本社勘定を使用します。
本社側の仕訳
材料の支払いであれば、材料は工場側の勘定科目のため、材料勘定は使用しません。仕訳は次の通りになります。
(借方)工場 ××(貸方)買掛金 ××
以上の通り、本社で工場に対する債権債務が発生した場合には、工場勘定を用い、工場で本社に対する債権債務が発生した場合には、本社勘定を使用して仕訳処理しましょう。
解答
(1)(借方)材料 40,000(貸方)本社 40,000
(2)(借方)仕掛品 5,250,000(貸方)賃金 6,765,000
製造間接費 1,515,000
(3)(借方)製造間接費 45,000(貸方)材料 45,000
(4)(借方)仕掛品 1,296,000(貸方)製造間接費 1,296,000
(5)(借方)製品 1,950,000(貸方)仕掛品 1,950,000
解説
(1)上述の通り。
(2)直接労務費と間接労務費(=製造間接費)に分類する。また、賃金の支払ではなく、賃金の消費と問題にあることから、借方は直接労務費であれば仕掛品、間接労務費であれば製造間接費となる。貸方は賃金。労務費の分類は「原価計算入門その9~労務費(分類と直接費、間接費)」、労務費の消費は「原価計算入門その10~労務費(消費時の計算と仕訳)」を参照。
(3)棚卸減耗費は間接経費。「原価計算入門その12~経費(分類・計算・仕訳)」を参照。間接経費であるので、借方は仕掛品ではなく、製造間接費勘定を使う。貸方は材料の減少であるので材料勘定になる。
(4)「製造間接費を製造指図書に配賦」とあるので、製造間接費を仕掛品に集計する段階だと分かる。従って、借方は仕掛品、貸方は製造間接費になる。製造間接費の計算については、「原価計算入門その16~製造間接費(予定配賦)」を参照。
(5)製造の結果、完成品を倉庫に搬入ということなので、仕掛品から製品へ振り替える。借方は製品、貸方は仕掛品になる。
終わりに
今回は本社工場会計を解説しました。
次回はこれまで解説していないその他の論点について解説します。
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目次
- 〇学習方法 工業簿記2級を学習する3つのコツ(苦手を克服)
- 〇概要 1.はじめに(必ずお読み下さい) 2.概要(原価計算の目的、定義、制度) 3.まとめ(1)実際原価計算 4.まとめ(2)標準原価計算 5.まとめ(3)直接原価計算、その他、損益計算書
- 〇費目別計算 6.材料費(分類と材料副費) 7.材料費(消費と月末の計算) 8.材料費(費目別計算、まとめ) 9.労務費(分類と直接費、間接費) 10.労務費(消費時の計算と仕訳) 11.労務費(まとめ) 12.経費(分類・計算・仕訳) 13.経費(まとめ) 14.予定単価(費目別計算) 15.予定単価(まとめ)
- 〇製造間接費と部門費計算 16.製造間接費(予定配賦) 17.製造間接費(固定費、変動費と配賦差額) 18.製造間接費(原因分析、予算差異と操業度差異) 19.製造間接費(まとめ) 20.部門別計算(製造・補助部門、部門個別費・共通費) 21.部門別計算(直接配賦法と相互配賦法) 22.部門別計算(続・直接配賦法と相互配賦法) 23.部門別計算(まとめ)
- 〇製品別計算(実際原価計算) 24.製品別計算(分類) 25.個別原価計算(概要:製造指図書、原価計算表) 26.個別原価計算(製品別計算、原価計算表) 27.個別原価計算(製品別計算、仕損) 28.個別原価計算(まとめ) 29.単純総合原価計算(概要:進捗度、加工費) 30.単純総合原価計算(製品別計算、度外視法) 31.等級別総合原価計算(製品別計算、等価係数) 32.組別総合原価計算(製品別計算、組間接費) 33.工程別総合原価計算(製品別計算、累加法、前工程費) 34.総合原価計算(まとめ)
- 〇製品別計算(標準原価計算) 35.標準原価計算(概要、原価標準) 36.標準原価計算(標準原価) 37.標準原価計算(価格・数量差異、賃率・作業時間差異) 38.標準原価計算(予算差異、操業度差異、能率差異) 39.標準原価計算(シングルプランとパーシャルプラン) 40.標準原価計算(原価差異の会計処理、まとめ)
- 〇直接原価計算その他 41.CVP分析(損益分岐図表と損益分岐分析) 42.直接原価計算(計算の方法、固定費調整) 43.本社工場会計(工場会計の独立) 44.その他(原価予測、製品の受払い)
- 〇損益計算書・製造原価報告書 45.損益計算書と製造原価報告書