8-1 3分法による商品売買取引の仕訳
商品売買の仕訳は「4-1 売上・仕入と仕訳」で解説しました。
ここでは、簿記3級で学習する3分法について、商品勘定も含めて、商品売買取引の仕訳を改めて解説します。
3分法
3分法(さんぶんほう)とは、商品の売買取引を記帳する場合に使用する仕訳処理の方法の一つです。
3分法による商品売買取引の仕訳
3分法では、「繰越商品(資産に属する勘定科目)」「仕入(費用に属する勘定科目)」「売上(収益に属する勘定科目)」の3種類の勘定科目を使用します。
「繰越商品」は、決算時の商品残高(商品在庫)を集計するために使用します。
「仕入」は、商品仕入れの他、販売した商品原価(=「売上原価(うりあげげんか)」といいます)を集計するのに使用します。
「売上」は、商品を販売した場合に使用します。
| 取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|---|
| 商品の仕入れ | 仕入 | ××× | 買掛金など | ××× |
| 商品の販売 | 売掛金など | ××× | 売上 | ××× |
| 期首商品の振替(決算時) | 仕入 | ××× | 繰越商品 | ××× |
| 期末商品の振替(決算時) | 繰越商品 | ××× | 仕入 | ××× |

<ポイント:売上原価>
- ・売上原価は、販売した商品の仕入れ値を集計した金額をいいます。
- →同じ商品の販売金額(売価)である売上と対の関係にある科目です。
- ・簿記3級では、売上原価は勘定科目としては登場せず、損益計算書の表示科目として学習します(「13-7 貸借対照表と損益計算書」で解説)。
仕訳の覚え方
上記の仕訳のうち、下2行(期首商品の振替と期末商品の振替)は、勘定科目の頭文字を「借方→貸方」の順番で
「しーくり(仕・繰)」
「くりしー(繰・仕)」
と覚えます。
次に「しーくり」「くりしー」の仕訳の意味について、仕訳問題を使って詳細に解説します。
仕訳問題
- A社の当期(×2年4月1日~×3年3月31日)における次の取引について、3分法により仕訳しなさい。
- 0.期首の繰越商品残高は、20万円である。
- 1.A社はB社より商品30万円を掛けで仕入れた。
- 2.A社はC社へ商品80万円(仕入額60万円)を掛けで販売した。
- 3.A社はD社より商品130万円を手形を振り出して仕入れた。
- 4.A社はE社へ商品120万円(仕入額90万円)を販売した。代金はE社振出の手形を受け取った。
- 5.決算を迎えた。期末商品棚卸高は30万円である。
| No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|---|
| 0 | 仕訳なし | |||
| 1 | 仕入 | 300,000 | 買掛金 | 300,000 |
| 2 | 売掛金 | 800,000 | 売上 | 800,000 |
| 3 | 仕入 | 1,300,000 | 支払手形 | 1,300,000 |
| 4 | 受取手形 | 1,200,000 | 売上 | 1,200,000 |
| 5 | 仕入 | 200,000 | 繰越商品 | 200,000 |
| 繰越商品 | 300,000 | 仕入 | 300,000 | |
<解説>3分法
※簿記3級の中では難しい部分。はじめは「しーくり」「くりしー」で仕訳を覚え、慣れてきて余裕ができたら読んでみる、で構いません。
Tフォームを使って、「繰越商品」「仕入」「売上」の3つの勘定科目について、仕訳の流れを見ていきます。
<No0.期首時点>
この段階で記帳する仕訳はありません。前期からの繰越商品が20万円。仕入や売上は期首のため残高0です。
- <取引(再掲)>
- 0.期首の繰越商品残高は、20万円である。
| No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|---|
| 0 | 仕訳なし | |||

<No1.~No4.商品仕入と販売取引の仕訳>
No1から4.の仕訳を反映したTフォームは次の通り。
- <取引(再掲)>
- 1.A社はB社より商品30万円を掛けで仕入れた。
- 2.A社はC社へ商品80万円(仕入額60万円)を掛けで販売した。
- 3.A社はD社より商品130万円を手形を振り出して仕入れた。
- 4.A社はE社へ商品120万円(仕入額90万円)を販売した。代金はE社振出の手形を受け取った。
| No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 仕入 | 300,000 | 買掛金 | 300,000 |
| 2 | 売掛金 | 800,000 | 売上 | 800,000 |
| 3 | 仕入 | 1,300,000 | 支払手形 | 1,300,000 |
| 4 | 受取手形 | 1,200,000 | 売上 | 1,200,000 |

<No5.決算時の仕訳>
次の仕訳処理を行います。
①期首繰越商品(前期商品棚卸高)を繰越商品勘定から仕入勘定に振り替える(しーくり)。
②期末商品棚卸高を仕入勘定から繰越商品勘定に振り替える(くりしー)。
- <取引(再掲)>
- 0.期首の繰越商品残高は、20万円である。
- 5.決算を迎えた。期末商品棚卸高は30万円である。
| No | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|---|
| 5 | 仕入 | 200,000 | 繰越商品 | 200,000 |
| 繰越商品 | 300,000 | 仕入 | 300,000 |

①(しーくり)と②(くりしー)を仕訳する理由は、「(1)仕入勘定で売上原価を集計するため」と「(2)商品残高を繰越商品勘定と一致させるため」です。
<ポイント:3分法の決算仕訳の役割>
- (1)仕入勘定で売上原価を集計するため
- (2)繰越商品勘定の残高を実際の期末商品棚卸高と一致させるため
「売上原価(うりあげげんか)」とは、ここでは「販売した商品の仕入額」ということと覚えておいて差し支えありません。
①(しーくり)と②(くりしー)を仕訳することで、繰越商品勘定の残高30万円は期末商品棚卸高と一致するので(2)は解決しました。
(1)について、仕入勘定を左側(借方)と右側(貸方)に分けて考えます。

仕入勘定の左側には、期首に存在した商品20万円と当期に仕入れた商品を計上しています。これらが意味するのは「当期に存在した商品180万円」です。
一方で仕入勘定の右側は②の仕訳によって、期末商品棚卸高を計上しました。これが意味するのは「当期末に存在する商品30万円」です。
すると、左側の「当期に存在した商品180万円」から右側の「当期末に存在する商品30万円」を差し引いた金額150万円が意味するものは何か?といえば、「当期に存在しなくなった商品」すなわち「当期に販売された商品の仕入額」になります。これが売上原価になります。
これに対して、「当期に販売された商品の販売額」は何か?といえば、売上勘定に集計した金額200万円になります。売上200万円から売上原価150万円を差し引くと利益50万円を計算できますが、この売上、売上原価、利益は損益計算書に表示します。
決算手続きを終えた段階のTフォームは次の通り。損益勘定は「13-4 決算振替」で解説します。

