工業簿記2級 製造部門と補助部門とは(原価計算入門)|概要と手続き
更新日:2020年12月26日
作成日:2020年6月23日
引き続き、部門別計算について解説します。
関連記事
- 部門別計算とは(概要と手続き、仕訳)
- 製造部門と補助部門とは(概要と手続き) ←今回の解説
- 部門個別費と部門共通費とは(集計方法、仕訳)
- 直接配賦法とは(計算方法と仕訳)
- 相互配賦法とは(計算方法と仕訳)
- 補助部門費配賦差異とは(計算方法と仕訳)
※この「原価計算入門」のサイトでは、2級レベルの工業簿記を、衣服メーカーを例として毎回解説しています。
種類別の勘定連絡図(個別、総合、標準)
クリックすると、実際個別原価計算、実際総合原価計算、標準原価計算それぞれの勘定連絡図(簿記2級で出題される典型的なケース)が別窓で開きます。
今回の学習はココ
製造間接費の部門別計算のうち、製造部門と補助部門について学習します。工業簿記の計算段階でいうと、主に第2段階の部門別計算に関係します。
<今回の学習ポイント>
- ・製造部門、補助部門とは
- ・部門別計算上の役割や両者の違い
- ・具体例と原価計算上の手続き(ズボンメーカーを例に)
部門別計算(ぶもんべつけいさん)とは、費目別計算によって集計した費目(直接材料費、直接労務費、直接経費、製造間接費)を製品に集計する前に部門別に分類して計算・集計するための手続きをいいます。
製造部門と補助部門を設定し、直接配賦法や相互配賦法といった計算方法を使って、最終的には各製造部門に原価を集計します。
製造部門とは
製造部門(せいぞうぶもん)とは、原価計算手続きのうち、製造間接費の部門別計算において設定する情報の1つであり、直接、製造作業を行う部門をいいます。
引用元:原価計算基準
「製造部門とは、直接製造作業の行なわれる部門をいい、製品の種類別、製品生成の段階、製造活動の種類別等にしたがって、これを各種の部門又は工程に分ける。たとえば機械製作工場における鋳造、鍛造、機械加工、組立等の各部門はその例である。」
補助部門とは
補助部門(ほじょぶもん)とは、原価計算手続きのうち、製造間接費の部門別計算において設定する情報の1つであり、製造部門の製造作業を補助する枠割を担う部門をいいます。
引用元:原価計算基準
「補助部門とは、製造部門に対して補助的関係にある部門をいい、これを補助経営部門と工場管理部門とに分け、さらに機能の種類別等にしたがって、これを各種の部門に分ける。」
製造部門と補助部門の具体例(ズボンメーカーを例に)
会社はビジネス活動のために様々な部門を組織的に配置しています。
例えば、営業部門、経理部門、総務部門、人事部門、経営企画部門など(通常は部門ではなく部と呼ぶことが多い)。
製造に関する部門も組立部門、加工部門、切削部門、修繕部門など様々です。
例えば、ズボンメーカーを例に製造部門と補助部門を分類すると次の通り(架空の部門。一例)。
項目 | 説明 | 具体例(ズボンメーカー) |
---|---|---|
製造部門 | 直接製造作業を行う部門 | (布の)切抜部、裁縫部、取付部 |
補助部門 | 製造部門に対して補助的関係にある部門 | 運搬部、清掃部、企画部、工場事務部 |
まずは製造部門。
部門名 | 説明 |
---|---|
切抜部 | ズボンの材料である布を寸法通りに切り抜く部門 |
裁縫部 | 切り抜いた布を図面通りに糸で縫う部門 |
取付部 | ボタンやファスナーといった部品を取り付ける部門 |
次に補助部門。
部門名 | 説明 |
---|---|
運搬部 | 材料を倉庫から製造部門へ運ぶ部門 |
清掃部 | 工場を清掃する部門 |
企画部 | 新しいズボン製品を考えデザインし仕様や図面を作成する部門 |
工場事務部 | 工場の財務経理や人事総務など事務作業を行う部門 |
工場のズボン製造活動を具体的に説明すると次の通り。
まず、製造部門では切抜部が布を切り抜き、次に裁縫部が糸で布を縫い、最後に取付部がボタンやファスナーを取り付けます。
補助部門では運搬部が布、糸、ボタンやファスナーといった材料を倉庫から取り出して製造部門へ運びます。散らかった工場を清掃部門が定期的に巡回して掃除します。企画部では現在のニーズにマッチしたズボンを調査分析して新製品のデザインを考え製品化までの道筋を本社に提案します。工場事務部では工場の毎月の給料支払いや経費関係といった事務作業を行います。
両者の部門別計算における役割と違い
部門別計算の役割は次の2つ。
<部門別計算の役割>
- (1)製造間接費を部門別に管理するため
- (2)製造間接費を正確に計算するため
(1)は、製造間接費の予定額と実際発生額を比較した際に部門別に集計しておけば、原因を特定しやすく対策も講じやすいため、管理しやすいということです。
(2)は、「適切に原価を配分できる部門毎の配賦基準」や「補助部門と製造部門」、「集計のための計算方法」を設定して部門別計算を行えば、部門別計算を行わずに単一の配賦基準のみで各製品に配賦した場合よりも、より正確に製造の実態を原価配分に反映できるため、正確な原価計算につながる、ということです。
より具体的には、製造間接費を部門個別費と部門共通費に分類して、それぞれ製造部門と補助部門の各部門へ集計し、その後、直接配賦法や相互配賦法といった計算方法を使って、最終的には補助部門の費用を全て製造部門へ配賦する手続きをいいます。
引用元:原価計算基準
「原価部門とは、原価の発生を機能別、責任区分別に管理するとともに、製品原価の計算を正確にするために、原価要素を分類集計する計算組織上の区分をいい、これを諸製造部門と諸補助部門とに分ける。」
以上の役割を部門別計算が果たすために設定される情報の一部が製造部門と補助部門です。
ズボン製造の実態にマッチした製造部門と補助部門を設定すれば、それだけ原価を正しく各部門に集計できます。部門別に予定原価を設定して実際原価と比較すれば、どの部門でどれだけコストを使いすぎたのか、もしくは抑えられたのかが明確になるため、製造間接費を部門別管理に貢献します。
適切な部門の設定は製造間接費の正確な計算にも当然貢献します。例えば本社の営業部を製造部門に設定したとしても、ズボン製造には全く関係がないためデタラメな原価計算になってしまうことは明らかです。
引用元:原価計算基準
「製造および補助の諸部門は、次の基準により、かつ、経営の特質に応じて適当にこれを区分設定する。(以下、省略)」
次に両者の違いは、製造部門はズボン製造の直接的な作業を行う部門であるのに対して、補助部門は製造部門の作業を補助する部門です。
部門別計算においてもこの違いを反映するために、それぞれ異なる原価計算手続きを行います。
部門別計算上の製造部門と補助部門の手続き
具体的には、まず「補助部門は製造部門を補助する」という関係を原価計算に反映するために、補助部門に集計した部門費(部門個別費+部門共通費)は直接配賦法や相互配賦法といった計算方法によって、全額、製造部門に配賦します。
引用元:原価計算基準
「次いで補助部門費は、直接配賦法、階梯式配賦法、相互配賦等にしたがい、適当な配賦基準によって、これを各製造部門に配賦し、製造部門費を計算する。」
次に「製造部門はズボン製造の直接的な作業を行う」を原価計算に反映するために、製造部門に集計した製造間接費を、配賦基準に従って各製品に配賦します。
例えば個別原価計算では、各製造指図書に製造部門費を適切な配賦基準に基づいて配賦します。
引用元:原価計算基準
「個別原価計算における間接費は、原則として部門間接費として各指図書に配賦する。」
<部門別計算上の製造部門と補助部門の手続き>
- ・補助部門は製造部門を補助→補助部門費は全額、製造部門に配賦
- ・製造部門がズボンの直接作業を行う→製造部門から各製品へ配賦
問題例(ズボンメーカーを例に)
製造部門と補助部門を理解するための問題(配賦基準や直接配賦法や相互配賦法といった計算は省略)。
※部門別計算上の他の手続きに関する問題は各記事に掲載しています。
<問題例-製造部門と補助部門の設定>
- 当社は2種類のズボン(ジーンズ、チノパン)を製造している。部門と部門費(製造間接費)は次の通り。
- ・製造部門:切抜部160万円、裁縫部80万円
- ・補助部門:運搬部60万円
- ・運搬部の部門費は切抜部へ40万円、裁縫部へ20万円を配賦する。
- ・製造部門費は、ジーンズ:チノパン=2:1の割合でそれぞれの製品へ配賦する。
- (問題)ジーンズとチノパンそれぞれの製造間接費を求めましょう。
<解答-製造部門と補助部門の設定>
- ・製造部門費-切抜部=160万円+運搬部からの配賦40万円=200万円
- ・製造間接費-裁縫部=80万円+運搬部からの配賦20万円=100万円
- ・製造間接費-ジーンズ=(切抜部200万円+裁縫部100万円)× 2 / (2+1)=200万円(解答)
- ・製造間接費-チノパン=(切抜部200万円+裁縫部100万円)× 1 / (2+1)=100万円(解答)
次の問題と解説
部門別計算のうち、部門個別費と部門共通費について解説します。配賦基準を使って部門共通費を部門に集計できるようにすることがポイント。
☆フォローお願いします
簿記2級・3級のスケジュール進捗管理に〇
過去問30回を分析した仕訳問題集
価格:480円(Kindle Unlimited対象商品)
<本書の特徴>
- ・厳選した100問。試験範囲のほとんどをカバー
- ・1問1答1解説形式→電子書籍でもストレスなく読める
- ・テキストを読んだ後や直前対策に使用すると効果的