原価計算入門その17~製造間接費(固定費、変動費と配賦差額)
作成日:2016年11月11日 更新日:2018年5月20日
前回に引き続き、製造間接費について解説します。
製造間接費とは、費目別計算で計算した要素のうち、間接費(間接材料費、間接労務費、間接経費)を集計したものをいいます。
下記に学習上のポイントを参考に記載しました。ご利用ください。
※この「原価計算入門」のサイトでは、2級レベルの工業簿記を、衣服メーカーを例として毎回解説しています。
【学習のポイント】
0.製造間接費の分類
1.予定配賦額の計算
2.配賦差額の計算と原因分析
①変動費と固定費
②予算許容度の計算
③予算差異と操業度差異
【製造間接費(固定費と変動費)】
前回の設例では予定配賦を題材としました。
原価計算基準にも記載がありますが、間接費は実際配賦率ではなく予定配賦率を使用することが原則です。
予定配賦率を使用することは、予定の製造間接費を各製品に配賦することです。
そして、実際の製造間接費と予定の製造間接費との差額については、原因別に分析し適切に処理(仕訳に反映させる)します。
なぜならば、原因別に差額分析することにより、原価管理に役立てるとともに、最終的には実際の数字を原価に反映させることができるからです。
【固定費と変動費】
予定額と実際額の差額を分析するために、製造間接費を操業度との関係から固定費と変動費という2つの要素に分けます。
項目 | 説明 | イメージが近い勘定科目(※) |
---|---|---|
固定費 | 操業度の変動に関係なく 一定額が発生する | 減価償却費、賃借料、租税公課など |
変動費 | 操業度の変動に比例して 発生する | 間接材料費、間接工賃金、水道料・ 電力料の従量金額部分など |
(※)科目毎で固定費・変動費を厳密に区別することはできません。あくまでもイメージが近い科目ということで紹介しています。
【製造間接費の配賦差額】
設例を使用して解説します。
【設例】
衣服メーカーでは、ズボンの生産量を配賦基準として製造間接費を各製品に配賦している。
・年間ズボン生産量:42,000本(期待実際操業度)
・当月の実際操業度:3,600本
・実際製造間接費:1,360,000円
・年間製造間接費予算:15,120,000円
(変動費率 @120円 固定費予算 10,080,000円)
(問1)配賦差額を求めましょう。
(問2)配賦差額を予算差異と操業度差異に分けましょう。
【解答】
(問1)
予定配賦率:年間製造間接費予算 ÷ 年間ズボン生産量42,000本 = @360円
予定製造間接費配賦額:@360円 × 3,600本 = 1,296,000円
配賦差額 = 予定製造間接費配賦額1,296,000円 - 実際製造間接費1,360,000円 = △64,000円(不利差異、借方差異)
(問2)
予算許容度 = 変動費率@120円 × 実際操業度3,600本 + (固定費予算 10,080,000円 ÷ 12ヶ月)= 1,272,000円
予算差異 = 1,272,000円 - 1,360,000円 = △88,000円(不利差異、借方差異)
操業度差異 = 1,296,000円 - 1,272,000円 = 24,000円(有利差異、貸方差異)
(別解)操業度差異 = (3,600本 - 3,500本) × 固定費率@240円(※) = 24,000円(有利差異、貸方差異)
【解説】
前回解説の設例から指示を追加しています。
(問1)配賦差額を求める問題
実際製造間接費が設定されています。
計算した予定製造間接費配賦額1,296,000円との差額を求める問題です。
実際と予定との差額を求めるには、「予定-実際」と、予定配賦額から実際額を差し引くようにします。
設例のように計算の結果がマイナス(△)の場合を、「不利差異(または借方差異)」といい、プラスの場合を「有利差異(または貸方差異)」といいます。
「マイナスの場合には実際の方が予定よりも費用が多いため、借方に費用を仕訳計上する。従って、不利や借方という言葉を使用している」と覚えておきましょう。
次に問2を解説します(次のページ)。
【終わりに】
今回は製造間接費について、固定費と変動費の違いや配賦差額を解説しました。
次回は製造間接費の原因分析について解説します(設例の続き)。
前の解説 | 次の解説
目次
- 〇学習方法
工業簿記2級を学習する3つのコツ(苦手を克服) - 1.概要
その1~はじめに(必ずお読み下さい)
その2~概要(原価計算の目的、定義、制度)
その3~まとめ(1)実際原価計算
その4~まとめ(2)標準原価計算
その5~まとめ(3)直接原価計算、その他、損益計算書 - 2.費目別計算
その6~材料費(分類と材料副費)
その7~材料費(消費と月末の計算)
その8~材料費(費目別計算、まとめ)
その9~労務費(分類と直接費、間接費)
その10~労務費(消費時の計算と仕訳)
その11~労務費(まとめ)
その12~経費(分類・計算・仕訳)
その13~経費(まとめ)
その14~予定単価(費目別計算)
その15~予定単価(まとめ) - 3.製造間接費と部門費計算
その16~製造間接費(予定配賦)
その17~製造間接費(固定費、変動費と配賦差額)
その18~製造間接費(原因分析、予算差異と操業度差異)
その19~製造間接費(まとめ)
その20~部門別計算(製造・補助部門、部門個別費・共通費)
その21~部門別計算(直接配賦法と相互配賦法)
その22~部門別計算(続・直接配賦法と相互配賦法)
その23~部門別計算(まとめ) - 4.製品別計算(実際原価計算)
その24~製品別計算(分類)
その25~個別原価計算(概要:製造指図書、原価計算表)
その26~個別原価計算(製品別計算、原価計算表)
その27~個別原価計算(製品別計算、仕損)
その28~個別原価計算(まとめ)
その29~単純総合原価計算(概要:進捗度、加工費)
その30~単純総合原価計算(製品別計算、度外視法)
その31~等級別総合原価計算(製品別計算、等価係数)
その32~組別総合原価計算(製品別計算、組間接費)
その33~工程別総合原価計算(製品別計算、累加法、前工程費)
その34~総合原価計算(まとめ) - 5.製品別計算(標準原価計算)
その35~標準原価計算(概要、原価標準)
その36~標準原価計算(標準原価)
その37~標準原価計算(価格・数量差異、賃率・作業時間差異)
その38~標準原価計算(予算差異、操業度差異、能率差異)
その39~標準原価計算(シングルプランとパーシャルプラン)
その40~標準原価計算(原価差異の会計処理、まとめ) - 6.直接原価計算その他
その41~CVP分析(損益分岐図表と損益分岐分析)
その42~直接原価計算(計算の方法、固定費調整)
その43~本社工場会計(工場会計の独立)
その44~その他(原価予測、製品の受払い) - 7.損益計算書・製造原価報告書
その45~損益計算書と製造原価報告書
【関連記事】
他コンテンツの記事です。