賃率差異とは|仕訳・売上原価計上の意味、計算方法・勘定科目
記事最終更新日:2025年1月7日
記事公開日:2020年5月19日
賃率差異は原価差異の1つです。労務費の会計処理で発生しますが、「不利差異の場合に賃金・給料勘定を貸方記入する理由」や「売上原価として処理する理由」に悩む受験生が少なくないようです。
そこで本記事では、賃率差異とは何かについて、計算方法や勘定科目だけでなく仕訳や売上原価処理の理由も含めて具体的に解説します。
※本記事は原価計算基準に基づき文章中心で解説しています。
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目次
賃率差異とは(概要)
賃率差異とは、原価差異の1つです。作業員の賃率として予定賃率を設定して労務費を計算した場合に発生する、実際賃率による実際発生額との差異をいいます。
引用元:原価計算基準
「賃率差異とは、労務費を予定賃率をもって計算することによって生ずる原価差異をいい、一期間におけるその労務費額と実際発生額との差額として算定する。」
実際原価計算の場合
実際原価計算で実際賃率ではなく予定賃率を使って労務費を計算する際に、賃率差異が発生します。
引用元:原価計算基準
「(一) 直接賃金等であって、作業時間又は作業量の測定を行なう労務費は、実際の作業時間又は作業量に賃率を乗じて計算する。賃率は、実際の個別賃率又は、職場もしくは作業区分ごとの平均賃率による。平均賃率は、必要ある場合には、予定平均賃率をもって計算することができる。」
標準原価計算の場合
賃率差異は標準原価計算でも発生しますが、同時に作業時間差異も発生します。
直接工・間接工との関係
賃率差異は賃率と作業時間から労務費を求める直接工で発生します。これに対して間接工では賃率を使用せず賃金支払額に基づく要支払額で労務費を求めるため、賃率差異は発生しません。
(補足)間接工に関する原価差異
- ・間接工の場合には、間接労務費として製造間接費で計上します。
- ・従って、仮に実際原価計算において製造間接費予算を設定した場合には、間接工の労務費に関する原価差異は「製造間接費配賦差異」として、予算差異・操業度差異の一部として処理されます。
計算方法
次の通り。複数の方法がありますが結果は同じになります。
賃率差異の計算方法
- 賃率差異 = 予定労務費 - 実際労務費
- = 予定賃率 × 実際作業時間 - 実際労務費
- =(予定賃率 - 実際賃率)× 実際作業時間
- ・結果がマイナス→借方差異(不利差異)
- ・結果がプラス→貸方差異(有理差異)
- ※実際原価計算の場合
(ポイント)予定と実際の後先
- ・必ず「予定−実際」の順番で計算
- (理由)実際の方が金額が大きい場合、賃率差異はマイナス(△)にしなければならないため
<例題>
当社は実際原価計算を採用しており、直接工の労務費の処理において予定賃率を設定している。
・予定賃率 1,500円/h
・今月の実際作業時間 5千h
・労務費(直接工)の実際発生額 765万円
今月の賃率差異を求めなさい。
<解答>
・賃率差異=1,500円/h✕5,000h − 7,650,000円=△150,000円(不利差異・借方差異)
賃率差異の仕訳
賃金・給料勘定から賃率差異勘定へ振り替える仕訳を記帳します。
※「原価差異」など別の勘定科目で処理する場合もあります。
<取引例>
上記で求めた賃率差異△15万円について適切に処理する。
<仕訳>
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
賃率差異 | 150,000 | 賃金・給料 | 150,000 |
(補足)なぜ賃金・給料勘定が貸方なのか?
それは、工業簿記での賃金・給与勘定は、労務費という原価を集計するための「一時的な格納場所」であり、「仕掛品」「製造間接費」「賃率差異」という資産や原価に属する別の勘定科目に振り替えたからです。
上の例で考えると次の通り。
<仕訳-賃金の支払い>
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
賃金・給料 | 7,650,000 | 当座預金 | 7,650,000 |
※単純化のため未払賃金は省略
<仕訳-労務費の計上>
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
仕掛品 | 5,000,000 ※ | 賃金・給料 | 7,500,000 |
製造間接費 | 2,500,000 ※ |
※借方は適当に割り振った金額
これらの仕訳の結果、実際額765万円(借方残)から予定額750万円を仕掛品・製造間接費に振り替えた後の残額15万円が賃金・給料勘定に残ったままになっています。そして、この15万円は賃率差異という原価差異であるため、仕掛品・製造間接費にではなく、賃率差異に振り替えるために仕訳します。
本例では賃率差異が不利差異(借方差異)です。つまり予定額750万円に上乗せして15万円の原価を追加計上しなければなりません。
そこで、賃率差異という原価の勘定科目に賃金・給料の15万円の残高を移動させるよう仕訳します。
原価は費用や資産と同じく借方に計上すると増加することから、賃率差異を借方、賃金・給料を貸方に記入して仕訳しているのです。
(補足)なぜ賃率差異は売上原価に直接計上するのか?
本例の賃率差異15万円は他の原価差異と一緒に当期の「売上原価」として計上し、損益計算書に表示します。
上の仕訳の通り、予定額750万円のみが労務費として処理されるため、このままだと労務費750万円は最終的には製品の販売時に売上原価として計上されますが、差額の15万円はいつまでも売上原価として処理されません。従って、賃率差異もどこかのタイミングで売上原価に計上しなければなりません。
そして、賃率差異を含めた原価差異(ただし材料受入価格差異を除く)は原則として当年度(発生した期)の売上原価に計上すると「原価計算基準」で定めています。
引用元:原価計算基準
「四七 原価差異の会計処理
(一) 実際原価計算制度における原価差異の処理は、次の方法による。
1 原価差異は、材料受入価格差異を除き、原則として当年度の売上原価に賦課する。
(以下、省略)」
つまり、原価差異は予定額のように製品の販売まで待たず、原則として発生した期にすぐに売上原価になります(ただし、多額の原価差異が発生した場合には、一部は仕掛品や製品に含めて処理するといった内容の条文が上記の原価計算基準の省略部分に載っています)。
以上から、賃率差異は売上原価として直接計上します。
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